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ニュース・アナリシス

写真 東日本大震災がICT市場/産業に及ぼす影響

2011年3月22日
田崎 堅志, 青山 浩子, 蒔田 佳苗, 三谷 智子, 佐藤 篤郎, 海老名 剛, 堀 勝雄,
石渡 昭好, 片山 博之, 中野 長昌
Note Number:NA-0011-0003

2011年3月11日14時46分に発生した三陸沖を震源地とする東北地方太平洋沖地震 (以降、東日本大震災) に関し、現時点で国内外ICT市場/産業に及ぼす影響について分析する。

概要

 2011年3月11日14時46分に発生した三陸沖を震源地とする東日本大震災は、国内外にさまざまな影響を及ぼしている。ICT市場/産業もその例外ではない。ICT産業にとっては、素材、半導体、製品、サービスといったサプライチェーンにおける震災の直接的影響に加え、その需要先である一般消費者や企業の消費/投資動向の変化、さらにはビジネス拠点としての地政学的リスク認識の変化など、考慮すべき多くの要素が存在する。ここでは、東日本大震災が現時点 (2011年3月19日) で国内外のICT市場/産業に与える影響について分析する。
 

分析

考慮すべき要素

 ICT市場/産業は、大きくハードウェア、ソフトウェア、ITサービス、通信の4つのセグメントから構成される。また、半導体はこれらの基盤となる産業であり、ICT市場/産業全体に大きな影響力を持つ。各セグメントはそれぞれ異なる特性や構造を有しつつ、サプライチェーンやバリューチェーンの中で相互に関連付いている上、本震災がもたらす影響の範囲は一様ではなく、状況も時々刻々と変化している。そうしたことから、その全体像が明らかになるには今しばらく時間を要するであろう。

 しかしながら、以下の要素は市場/産業の今後にマイナスの影響を及ぼすものとして継続的に精査していく必要がある。

  • ICT市場/産業でのサプライチェーンにおけるボトルネックの発生

  • ベンダーにおける被災施設/設備改修投資負担の発生

  • 需要サイド (一般消費者やユーザー企業) における消費/投資意欲および優先順位の変化

  • 地政学的な見地における、グローバル・ビジネス拠点としての日本の魅力度の低下

 これらは、比較的長期的な影響となる4つ目の項目を除けば、その程度の差はあるものの、2011年を通じ、2008年末以降の景気後退から回復へと転じつつあった市場の勢いを削ぐ要因として確実に存在することになる。

 一方、復興へのプロセスにおいてICT市場/産業における需要を高める要素も存在する。

  • ユーザー企業における事業継続/リスク管理対応強化のためのICT投資

  • 震災復興への公共部門の投資による景気刺激

  • 個人におけるICT活用意識の向上

  • 社会インフラストラクチャ全般の見直しと刷新に向けた公共部門を中心とする投資拡大

 これらは、2つ目の項目を除き、ネガティブな要素に比べ、中長期の時間をかけ徐々に効果をもたらすたぐいのものといえ、需要が顕在化するのは早くても2011年後半以降であろう。

 国内におけるユーザー企業のICT投資動向は直前の景気動向に強く影響され、特に景気後退の兆候が表れるとその投資抑制効果が即座に表れることが、ガートナーの過去の調査結果から明らかになっている。一方で、景気回復時の相関は大きな遅れを持って表面化する (備考1参照)。被災した福島第一、第二原子力発電所 (以降、原発) と電力供給の問題、円高、原油高騰の影響が日本経済全体に大きな影を落とすのは必至であり、ユーザー企業のICT投資をマイナスの方向に向かわせる。多くのユーザー企業は、リーマン・ショック後に大きなITコスト削減策を施したばかりであるため、短期的にはコスト削減の対象は維持費ではなく復活しかけた新規投資となるであろう。一方で、事業継続計画 (BCP) 対策により、クラウド・サービスの利用あるいは利用検討を前倒しするユーザー企業も増えると考えられるが、これも企業におけるICT投資 (社内人件費を含む) を鈍化させる方向に働く可能性がある。ガートナーでは企業における2011年の国内ICT投資動向に関し、震災前は微増を見込んでいたが、上記の理由により微減に修正した。震災前に予定していた新規ICT投資の復活は、原発や電力供給問題の解決時期に影響されるが、企業活動が正常な状態に戻った後半年〜1年と見積もっている。

 直近で問題となるサプライチェーンにおけるボトルネックは、製造、物流、受注処理それぞれにおいてさまざまなレベルで発生している。しかし、最も懸念される半導体デバイス供給の観点では相対的に軽微なものにとどまるとみられ、現時点 (2011年3月19日) ではやや時期尚早ではあるが、その影響の範囲や度合いは限定的となる可能性が高いと考えられる。むしろ、2011年以降において、半導体デバイスの供給逼迫をグローバルに引き起こしかねない潜在的な問題に留意する必要がある。

主要セグメントにおける震災の影響

サーバ市場

 国内サーバ市場の四半期出荷台数の成長率は、内閣府と経済産業省から四半期ごとに発表されるGDPや情報化投資指標の傾向とほぼ連動することが、過去の調査結果から明らかとなっている。このため、日本経済全体に広がる大きな影は、国内サーバ市場の成長を失速させるものとみられる。

 地震による被害を受けた開発・生産拠点には、国内外向けサーバ生産の主要拠点も一部含まれているほか、ビジネス活動における制約もあるため、サーバ製品の出荷が大幅に遅延する可能性が高い。さらに以下のような影響が想定される。

  • 震災によるユーザー企業の投資の再配置あるいは全面的な中断といった判断が、収益性の面でベンダーに大きな影響を及ぼす。

  • ユーザー企業における予算削減や見直しにより、サーバ製品への価格圧力が強まる。

  • 今回の災害を教訓とした厳しいガイドラインや設置基準、調達の代替案提示の規定などが設けられ、ベンダーはそれらへの対応を迫られる。

パソコン市場

 短期的に見て、国内に組み立て・製造拠点を持つ一部の大手ベンダーの直接的被害と間接的影響、国内生産のPC主要部材および関連素材の供給不足、物流の遅延、需要低下などが、国内外のPC市場に影を落とすことは必至である。今後市場では、以下に挙げる順に、動きがあることが想定される。

  • 直接的被害および間接的影響に伴う特別対応が急務となることで、通常業務が停滞・遅延することによる二次的影響

  • 在庫部材を消化した後の、一部関連部材の供給不足による製造・出荷の遅延

  • 一般消費者およびユーザー企業における一時的な購買マインドの低下による需要減少、購入計画の遅延、購買品目の優先度の変化といった形で、数カ月のスパンで市場成長速度が低下

  • その後、復旧・復興に向けた特別対応や一時的需要を経て、徐々に短期的影響が沈静化

  • BCP対応強化、出先での主要情報ツールの利便性追求などにより、ユーザー企業と一般消費者の間で「モバイル志向の高まり」と「PC離れ」が加速

 機能・操作性に優れるPCは、利用者にとって「恵まれた環境で威力を発揮する有能な補佐役」であり、機能は劣るが機動性がより高いその他のモバイル情報機器を補完するものであるという意識が生まれてきている。震災はこの意識の広がりを加速させるきっかけとなった可能性があり、これを前提とすると、PCの潜在市場規模の縮小も想定の範囲内となってくる。しかしこれは視点を変えると、機能・操作の優位性を持ちつつも「いざ」という時に活用できる機動性の強化が、今後PCの市場性を高めていくためには必要不可欠な要件となりつつあることを意味する。今回の震災はこの点を明らかにしたといえるであろう。

複写機/複合機・プリンタ市場

 多くのベンダーが中国をはじめとするアジアの国々に機器の生産を移しているため、生産そのものへの影響は短期的には軽微と考えられる。しかし、ビジネス全体においてさまざまな影響が想定される。

  • 複写機/複合機・プリンタのオプション (フィニッシャや紙折機) や基幹部品などの国内調達品、および国内で生産している高速機や消耗品の生産に影響が出るのは必至である。

  • 複写機/複合機・プリンタのリサイクルは、電力消費と物流面から難しくなると考えられる。今後、世界全体での生産体制の見直し、および機器本体だけでなく消耗品の生産拠点の分散化が検討されると考えられる。

  • 販売面では被災地の復興に伴って一時的な需要の高まりが予想されるものの、投資の優先度をかんがみて機器の所有台数見直しや最適配置が行われると考えられるため、急激な出荷台数増加はなく、むしろ市場の縮小が懸念される。

  • 既に景気低迷により置き換えサイクルの長期化が顕著になっており、また一部の大型プリンタのユーザーにおいては投資の見直しや使用期間の長期化が見られていたが、この状態がさらに長期化する可能性もある。

  • 被災により営業拠点が稼働できない状況になっている地域、各ベンダーとも既に被災地以外の営業拠点で対応する態勢を整えているが、交通手段の障害のために保守サービスの対応に時間がかかることが想定される。また被災地以外でも、計画停電と物流の障害により、消耗品の配送に遅延が生じる可能性が高い。同時に、リサイクルや環境への配慮から行っている消耗品の空容器の回収にも影響が出ると考えられる。

 将来的には、オフィス市場において、機器を資産として所有せずに印刷枚数に応じて支払いを行うサービスへの関心が高まることが予想される。また、企業内印刷についても機器を所有する必要があるかどうかを検討するユーザー企業が増加すると考えられる。

携帯電話端末市場

 国内における主要部材の生産と物流の停止、遅延は、国内外の携帯電話端末の供給にネガティブな影響をもたらすことが必至である。これには、メディア・タブレット等のデバイスも含まれる。また、国内市場にフォーカスすると、一般にスマートフォンと呼ばれる端末の成長が期待されていたものの、冒頭の供給懸念とそれに伴う販売機会損失に加えて、ユーザー企業におけるICT投資、一般消費者の消費意欲低迷、購買品目の優先度の変化による端末購入先送りといった要因により、2011年の販売台数規模は従来の予測よりも低い水準にとどまる可能性がある。

 より中長期的な視点では、スマートフォンについては、エンタテイメント/ビジネスの両面でより一層の活用が進むことを想定しているため、従来の成長シナリオを大きく見直すことは現時点では考えていない。さらに、今回の地震および計画停電では、消費電力/バッテリ等に関する課題が再認識された一方で、情報発信/収集ツール、およびオフィス外での部分的なビジネス・ツールとしての有効性も改めて認識されたものと考えられる。したがって、短期的には下方修正の可能性があるものの、本セグメントの潜在市場規模は従来予測と大きく変わらないものとガートナーではみている。

ITサービス市場

 このたびの震災が日本国内のITサービス市場へ与える影響は、次のような観点から、短期的にマイナス要素が大きいとみている。

  • 大手ITサービス・プロバイダーの多くは、東北地方にも開発センターやデータセンターを配備しており、一時的な操業中断やネットワーク障害等に見舞われたが、早期に稼働を再開している。プロバイダーのサービス提供能力に対する震災の影響は限定的とみている。

  • むしろ懸念すべきは、東京以北に営業・製造拠点を持つユーザー企業のITサービス需要が一時的に低迷する事態である。計画停電による物流・輸送機能の混乱・縮減や、為替の急変動により、製造・流通を中心とする民間企業の業績が悪化するリスクが高まる。3月が会計年度末に当たる企業も多く、この時期の営業活動の停滞は、次年度のコスト抑制を誘発し、新規ITサービス投資案件に対する削減・凍結・延期・縮小などを引き起こす可能性がある。

  • ハードウェア製品のサプライチェーンが一時的な中断を余儀なくされている。このため、アプリケーション開発/SIサービスにおいて、サーバやPCの新規・更新調達を伴う案件では、納期遅延やエンジニアの「塩漬け」リスクが高まる。ハードウェア製品保守サポート・サービスも同様であり、新規受注や契約更新のタイミングに遅れが発生する恐れがある。このような状況が長引くほど、プロバイダーのキャッシュフローや収益性にマイナスの影響を及ぼすことになる。

  • IT基盤運用管理等のITマネジメント・サービスにも同様に、コスト圧力や受注サイクルの長期化などの悪影響が予想される。

 とはいえ、今後事態が復興へと向かえば、中期的には、データセンター・サービスの需要が新たに喚起されるとみている。ビジネス継続を目的とするセカンダリ・サイトや分散型データセンターへの顧客の関心が一層高まるであろう。一部のプロバイダーでは、自然災害が少ない海外地域にセンターを設置する動きが加速する可能性もある。

通信市場

 通信市場は企業ネットワーク機器、通信事業者インフラストラクチャ機器、固定および移動通信サービスの各サブセグメントから成る。それぞれに震災の影響を受けはするが、市場規模という観点での大きな変化は短期的には想定していない。

  • 企業ネットワーク機器市場への影響は、需要面の低迷に加え、供給面においても、製造、物流、受注処理、サポートなどの一連のプロセスにおいてマイナスの影響が見込まれる。ただし、外資系ベンダーが主体の本市場は、他の製品市場に比べるとマイナスの影響は小さいと想定される。在宅勤務社員の急増に起因するWAN機器へのニーズ拡大などのプラス面も一部考えられるが、市場全体への影響は軽微であろう。総じて、2010年度、2011年度前半における需要低迷と一部での供給不安定な状況が続き、市場の低迷が予想される。

  • 通信インフラストラクチャは、震災と津波によりアクセス回線と移動基地局を中心に大きなダメージを受けた。基幹系は冗長化が幾重にも施されているため、被害は受けたものの2〜3日以内に復旧している。移動基地局に関しては、臨時移動基地局の設置と障害のあった基地局装置の修復により、2週間以内に最低限のカバーエリアが確保できるレベルまでは回復すると見込まれる。しかし、固定アクセス回線の復旧には、管路確認とその修復が必要であり時間がかかる。今後、移動通信事業者および固定通信事業者ともに機器への設備投資を増加させると予測している。ただ、通信事業者の今後の収益性が好転していくとは考えにくく、大きな増額は望めない。そのため、既存インフラストラクチャの復旧が優先され、次世代ネットワーク (NGN) およびLong Term Evolution (LTE) など新規ネットワークへの移行計画には遅延が出るとみている。

  • 通信サービス市場では一般消費者向け携帯電話サービスが大きな比率を占める。この部分は今回の震災によるネガティブな影響は軽微であり、むしろ緊急時のコミュニケーション需要が高まっていることから、通信サービス市場全体での短期収益動向を見直すまでには至らない。しかし、前述のような事業者の投資優先度見直しにより、中期的には市場が一時的に減速傾向を示す可能性も出てきている。さらに、通信事業者のグローバル展開において、投資面で制約を受けることも想定される。

半導体市場

 電子機器の重要部品である半導体を製造するメーカーは、東北地方にも半導体デバイス製造拠点 (前工程Fab) および半導体デバイス組み立て拠点 (後工程Fab) を有しているが、東日本大震災が半導体市場全体 (デバイス供給) に及ぼす影響は相対的に軽微であると考えられる。一部の半導体デバイス製造設備に深刻な損傷が報告されているものの、NANDフラッシュ、DRAMのような大規模な市場を形成している半導体デバイスの製造拠点は、東北地方より遠隔地にあるためである。ただし、半導体材料であるウェハの製造ラインが損傷を受けたと報告されており、この点は留意すべきである。日本は世界的なウェハの供給拠点であり、2011年以降、日本および世界の半導体デバイスの製造にネガティブな影響を及ぼすことが考えられ、供給逼迫などによりICT市場全体にも影響が波及する可能性がある (半導体関連については「Japan's Earthquake Creates Risks and Opportunities for Electronics and Semiconductor Companies」および続報を参照されたい)。
 

推奨事項

以上のような状況を踏まえ、ベンダーは次のような行動を取る必要がある。

  • 直接的/短期的にはサプライチェーンにおけるボトルネックが大きく影響する可能性があり、その評価の実施、およびそれらを織り込んだ短期的対応計画の策定への着手を開始する。

  • ボトルネックの早期解消に向け、追加コストの手当てを含めた積極的な対応を取る。これを放置すると、震災による景気やビジネスへのネガティブ・インパクトを増幅する恐れがある。

  • 当面は新規の投資ではなく復旧のための投資、および一時避難的な投資が拡大することを想定し、それらに対応した製品/サービス・ポートフォリオと価値提案の再構成、およびその提供体制を取る。

  • 顧客企業が震災によって直面している、直接的あるいは間接的な課題の解決に向け、積極的かつ徹底した支援を行っていく。顧客との信頼関係、通常では獲得することが困難な経験と実績など、支援と貢献を通じて得られるものは長期にわたり貴重な資産となる。

備考1 景気動向とICT投資動向の相関について

 リサーチノート、ITD-10-13、2010年6月15日付「日本企業のIT投資展望 (2010年度上半期版):2010年度はベンダーにとって今後の成長に向けた転換期」を参照されたい。

 

Topics: ICT市場、震災

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