デジタル・ガバメントとは?

デジタル・ガバメントとは、デジタル・データとテクノロジを有効に活用してデジタルな行政サービスを創造し、最適化し、変革できるよう設計および運営される政府機関を意味します。府省庁/地方自治体および公共機関・団体のCIOは、デジタル・ガバナンスの変革と最適化のための取り組みを推進するために、ガートナーのリサーチ、知見、ツールをご利用いただくことができます。

デジタル・ガバメントの取り組みのために、DX推進を継続そして加速することが極めて重要な理由とは?

デジタル・ガバメントとは、府省庁/地方自治体および公共機関・団体がデジタル技術を活用し、効率的で効果的な公共サービスを提供することを目指す取り組みのことを指します。

日本におけるデジタル・ガバメントの取り組みとして、2017年5月「デジタル・ガバメント推進方針」、2018年1月「デジタル・ガバメント実行計画」が報告されました。「デジタル・ガバメント実行計画」は2020年12月に改定され、その後2021年12月に廃止になっています。現在日本では、「デジタル社会の実現に向けた重点計画*」が報告されています。

*デジタル庁のWebサイト参照

リモートワークや遠隔学習への取り組みを推進したり、経済の健全性を維持するために、デジタル化は今や政府機関のオペレーションを継続的に実行する上での必須条件となっています。また、自動化とデジタル化による公共サービスの提供は、政府機関の業務オペレーションを持続可能性 (サステナビリティ)なものにするためにも不可欠です。しかし大半の政府機関にとって、危機発生時に行った変革のペースを、危機後も維持することは、いくつかの要因により難しくなることがあります。例えば、危機の時には一時的に変化への抵抗が弱まったとしても、危機が収束すると再び抵抗が現れるようなリスク回避の文化、緊急対応時に追加されたリソースが危機の後には減少するといった可能性があるからです。

テクノロジに詳しいITリーダーは、政府機関のリーダーに対し、デジタル・アクセラレーション (デジタル化による加速) を適切なレベルで維持することが行政サービスにとって非常に重要であることを理解できるようサポートする必要があります。具体的には、短期間で実現できる成果を特定し、政治上の優先課題に合ったデジタル化に取り組み、組織のオペレーティング・モデルの俊敏性を高めることが求められています。

例えば、ひとつのアプローチとして、推進途中のデジタル・イニシアティブや今後計画しているイニシアティブの優先度を、政府機関におけるユースケースと価値に基づいて再設定することが挙げられます。イニシアティブは以下のいずれかに分類できます。

  • 資金とリソースを他のイニシアティブへと移行するために、中止する必要のあるプロジェクト

  • 継続はするが、より差し迫ったニーズに余力を渡すためにペースを安定化させる (あるいは減速) する必要があるプロジェクト

  • パンデミック発生時さしあたりに行った解決策により、脆弱性が露呈されているため対処の必要があるプロジェクト

  • 拡大および強化して長期的に活用できるようにすべきプロジェクト。例えば、リモートワーク/ハイブリッド・ワーク、デジタル・テクノロジを駆使した市民とのコミュニケーション、およびリモート・オペレーションのサポート

  • 市民や企業の行動をより長期的かつ抜本的に転換するためのプロジェクト*

* 福祉サービス、公共の安全性のためのプロジェクトのほか、場合によっては、税制において、既存のサービスを、より先を見越した予測的なアプローチに変える可能性もある。

府省庁/地方自治体および公共機関・団体における「デジタル化による最適化」と「デジタル・トランスフォーメーション (DX)」との違いは何か?

「デジタル化による最適化」とは、府省庁/地方自治体および公共機関・団体がデータを活用して現行の業務プロセスを大幅に改善させることです。例えば、税務機関がデータ分析と予測モデルを使用して、税金を滞納するリスクを早期に評価し、リスクが高いと判断された場合には、期限前のリマインダや支払いの柔軟なスケジューリング、必要に応じた支援プログラムを提供するなど、滞納を防ぐための措置を取ることが可能です。

「デジタル・トランスフォーメーション (DX」とは、既存のプロセスやシステムを見直し、改善または更新したり、新しいアイデアや取り組みを導入し、従来の業務のあり方を再構築したりして、府省庁/地方自治体および公共機関・団体の業務のあり方を変えることです。例えば、先述の税務機関は、膨大なデータ・リソース、財政政策の知識、予測の専門知識、ディープ・ラーニング・ソフトウェアを活用することで、「デジタルによる最適化」の先へと進むことができます。例として、AIと自然言語処理技術を使用して、ユーザーからの質問に対する回答を生成できる仮想デジタル・アシスタントを利用すれば、小額の手数料で税務相談を行うことができるようになるでしょう。このようにして獲得する新たな収入源は、DXの成果とも言えるでしょう。

重要なことは、プロジェクトであれプログラムであれ、「DX」や「変革」と名の付くものが発表されたり、既に実施されたりしている場合にも注意を要する場合があります。これは、全面的な「変革」が必要であると最初に思われても、具体的に内容を分析すると、既存のシステムやプロセスを改善し、効率化する「最適化」の方が適切であるという結論になることがあるということを意味しています。全面的な変革が時間とコストがかかる一方で、最適化は比較的短期間で効果を期待できるからです。

 

府省庁/地方自治体および公共機関・団体のDXを支える主なテクノロジは何か?

DX推進に貢献できるテクノロジは多数ありますが、DXに最も関連するものは以下のとおりです。

  • デジタル・ガバメント・テクノロジ・プラットフォーム:政府の行政サービスを一元的に管理し、調整する技術的な能力セット。これは、市民エクスペリエンス、エコシステム、モノのインターネット (IoT)、ITシステム/アナリティクス等のような多様な領域にまたがり統合される

  • 市民デジタル・アイデンティティ:市民が府省庁/地方自治体とオンラインでやりとりを行う際に、本人確認を行うためのデジタルな証明書や識別情報。このデジタル・アイデンティティが一つの政府部門や特定のサービスだけに限定されず、複数のの政府部門や管轄にわたって共通のアイデンティティとして使用できるように進化する。政府の各事業部門が独自のアイデンティティ管理システムを持つことで生じる情報の断片化や非効率性を解消し、一つのデジタル・アイデンティティが全ての政府サービスに対して利用できるようになると、市民は各サービスで別々の認証手続きを行う必要がなくなり、利便性が向上する

  • ハイブリッド・クラウド・コンピューティング:一つ以上のパブリック・クラウド(一般に公開されているクラウドサービス)と一つ以上のプライベート・クラウド(特定の組織の内部だけで使用されるクラウドサービス)を組み合わせて利用。各クラウド・サービスは個別に動作するものの、全体としては統合された一つのシステムとして機能。パブリック・クラウドのコスト効率、スピード(俊敏性)、スケーラビリティ(拡張性)を享受しつつ、プライベート・クラウドが提供するデータやシステムへのコントロール(制御)とコンプライアンス(規制遵守)の要件を満たすことができる点に利点がある

  • データ共有:さまざまな省庁や組織から集められるデータを使って、改善策や新しい価値を見つけ出し、政府の業績を向上させる。このためには次の2点が重要である。ひとつめは各省庁が自身が持つデータ公開し、データの再利用とサービス革新を目指す。そしてもうひとつは、体系的かつ拡張性の高いアプローチで、データを分析できるような手法を取り入れる

  • トータル・エクスペリエンス:市民が府省庁/地方自治体および公共機関・団体とのさまざまな接点(ウェブサイト、アプリ、電話、対面など)を通じて経験する全体的な体験を改善するための戦略的アプローチ。このアプローチでは、「エクスペリエンス(体験)」、「インクルージョン(包摂性)」、「エクイティ(公平性)」の3つの要素を強化することが重視される。つまり、市民が利用するすべてのサービスが相互に連携し、一貫性があり、使いやすく、また、どの市民に対しても公平に利用できるように設計されていることを意味する。これにより、市民のエンゲージメント(政府との関わりの深さや積極性)が向上。トータル・エクスペリエンスは、単に一つのサービス(カスタマー・エクスペリエンス)だけでなく、全体的な体験に焦点を当てることで、サービス品質の向上とミッション達成能力を高める可能性がある

 

府省庁/地方自治体および公共機関・団体のDXは誰が責任を持つべきなのか?

府省庁/地方自治体および公共機関・団体のリーダーがデジタル化を進める上で直面する課題があります。まず、「デジタル化」とはテクノロジを増やすことだという考えは、デジタル技術の導入だけがデジタル化の目標であるという誤解です。しかし、実際にはデジタル化は、組織の文化、業務プロセス、戦略などの全体的な変革を伴うべきものです。次に、CIO(最高情報責任者)にデジタル化の取り組みを任せることは一般的ですが、それだけではうまくいかない場合もあります。そのため、多くの組織がCDO(最高デジタル責任者)やCXO(最高エクスペリエンス責任者)といった新しい役職を設けて、デジタル化の推進や市民体験の改善に専念させています。しかし、これらのCレベル(最高経営責任者レベル)のリーダーは、優れた知見を提供することはできても、実際に行動を起こすための権限を持っていないことが多くあります。つまり、Cレベルのリーダーはアイデアや戦略を提供できますが、それを実現するために必要なリソースや権限を持っていないため、デジタル化の推進が難しくなることがあります。

まず、最終的な戦略と実行に対する責任は、府省庁/地方自治体および公共機関・団体の最高責任者にあります。その肩書は様々であっても、全体のビジョンを設定し、目標を達成するためのリーダーシップを提供する役割があります。

その他のCレベルのリーダーも、次のように重要な役割を果たします:

  • CIO:テクノロジ・イネーブルメント(組織全体でテクノロジを活用できるようにすること)の実現を担当

  • CDO:デジタル化に関連する新しいアイデアや方針の創出を主に担当

  • 各事業部門のリーダー:政府系機関の各サービスのデジタル化に対する実際のデリバリ(実行)を担当

DXプログラムは、多数の業務や部門を跨ぐ大規模な変革プロジェクトであるため、誰が何を担当し、各々がどんな結果を出すべきか、どのように進捗を報告するかなどを明確にする管理体制、つまりガバナンス・フレームワークが必要です。

府省庁/地方自治体および公共機関・団体で変革や最適化が難しい理由として、実際の変革や最適化には、単に技術的な最適化や新しいツールの導入だけではなく、その業務をどのように行うかという基本的なプロセスそのものの見直しが必要となることが挙げられます。

組織内の各部門やチームが個別に行動するのではなく、全体として連携し協働することが重要です。これは多くの場合、組織全体の文化や慣習の変革を伴います。つまり、組織のリーダーシップや戦略、ビジョンに大きく依存しています。成功するためにはリーダーが変革の重要性を理解し、その実現に向けた明確な目標と計画を持つことが必要です。

 

DXの進捗はどうすれば測定できるのか?

No. 1:デジタル戦略

策定されたデジタル戦略は、期待されている緊急度を反映し、政府系機関の準備態勢を考慮し、デジタル化の成熟度を向上させることを目指しているでしょうか。

こうした側面の進捗を測定するには、ガートナーのデジタル・ガバメント成熟度モデルといった評価ツールを活用できます。この評価ツールは、CIOや他のデジタル・リーダーに、デジタル戦略の幅広さと奥深さ、そして、デジタル戦略の妥当性を検証するよう促すことが可能です。

この評価によって、デジタル戦略の複数の分野に目を向け、各分野の成熟度の向上に必要なステップを提案します。目的は、各分野の成熟度の最大化ではなく、府省庁/地方自治体および公共機関・団体のデジタル目標を達成するために十分な成熟度にすることです。

No. 2:デジタル戦略の実行

ある府省庁/地方自治体および公共機関・団体の戦略について、実行の成功の程度を評価するには、他の府省庁/地方自治体および公共機関・団体や同種の組織に対してベンチマークを実施します。

ガートナー・デジタル・エグゼキューション・スコアカードといったツールは、デジタル化の主要パフォーマンス指標を使って、同種の組織と比較することができます。比較することによって、デジタル化の実行面の各分野において、デジタル化への意欲と同種組織とのパフォーマンス比較に基づく相対的な強みと弱みを示した、客観的なベンチマーク・レポートを作成できます。

 

府省庁/地方自治体および公共機関・団体のDXを成功させるために重要な要素とは何か?

既に高度なデジタル化を実現した府省庁/地方自治体および公共機関・団体の教訓から、成功への鍵が明らかになっています。成功した政府機関は、単に一部分だけをデジタル化するのではなく、全体的な視点で変革を進め、デジタル化を組織全体の活動に取り入れています。デジタル化が組織全体に広がることで、その恩恵もまた全体に及び、より大きな効果や成果を実現できます。

成功している府省庁/地方自治体および公共機関・団体を際立たせる特性と行動としては、以下になります。

  • 変革も最適化も両方実施する:既存のプロセスをエンド・ツー・エンドで再設計することで変革も最適化も実施する。そして、デジタル化によって実現する新たなサービス/方法を生み出して価値を提供し、エンド・ツー・エンドのプロセスの一部を自動化して市民エクスペリエンスを変革する

  • 明確に計算されたデジタル化成功指標を使う:こうした指標を使って、デジタル化の影響と成熟度を測定する。例えば、高度にデジタル化された府省庁/地方自治体および公共機関・団体は、そうでない府省庁/地方自治体および公共機関・団体よりもはるかに、規制遵守、透明性、監査可能性、ミッションへの影響、効率性、職員の安全性/生産性をモニタリングおよび報告する傾向が強い

  • 今日的なプラクティスを採用する:例えば、ユーザー・リサーチ、人間中心の設計、共創、ジャーニー/ライフ・イベントのマッピングがある

  • 一般的なテクノロジとプラットフォームを展開する:例えば、デジタル・アイデンティティ・ソリューション、統合プラットフォーム、人工知能 (AI) テクノロジ、ロボティック・プロセス・オートメーション (RPA) がある

府省庁/地方自治体および公共機関・団体のDXにおける主な課題は何か?

DXプログラムは依然として、以下に示す多数の重要な課題に直面しています。

  • 組織のサイロ化:サイロは、府省庁/地方自治体および公共機関・団体、業務領域を横断して存在する。サイロごとに異なる介入方法によって、戦略、資金提供、実装成功に影響を与える必要がある

  • リスク回避の文化:府省庁/地方自治体および公共機関・団体は特にリスクに敏感である。失敗は、当選した公職者に悪印象を与えるため、行政は恐れている。また、サービスの提供に注力する現場の職員も、実証済みのプラクティスを変えることに利点を見出せないことから、変化を嫌がる可能性がある

  • 資金提供:資金提供に関する課題は、複数の問題があることを示唆していることが多い。例えば、戦略と意思決定のサイロ化のほか、テクノロジへの支出を戦略的投資ではなくOPEX (運営費) と見なすという問題がある

  • デジタル・スキルの格差:DXプログラムの成功には、エンタプライズ・アーキテクチャ、サイバーセキュリティ、クラウド、アナリティクス、デジタル・エクスペリエンス設計といった分野の中核スペシャリストとしてのコンピテンシが不可欠だが、府省庁/地方自治体および公共機関・団体には、こうした人材が不足しがちである 

  • リソース調達:ビジネスや専門領域における専門家を適時に活用できないということは、多くの場合、「目標達成に結び付かない優先課題になる」「意思決定がサイロ化される」「組織文化に課題がある」「幹部レベルのデジタル・デクステリティが低い」といった状況であることを端的に示している

政府および公共機関・団体にご活用いただけるガートナーの強み

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