「来期は一律10%削減で」。この一言で始まる予算会議が、以前ほど機能しなくなっています。理由は2つあります。ひとつは、IT支出の増加分の多くが、自部門で決めた投資ではなくなっていること。もうひとつは、そうした削減が長続きしないことです。
ガートナーでは、支出の削減とコストの戦略的な管理を、別のものとして捉えています。削減は必要になる場面こそあるものの、戦略ではありません。本記事では、いま起きている支出構造の変化を確認したうえで、戦略的なIT予算管理をどう構造化するべきかを解説します。
AI時代のIT予算をどう組み替えるか。ガートナーはCIO向けに、戦略的なコスト最適化の考え方を整理したeBookを無料でご提供しています。
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ガートナーは2026年7月、同年の世界IT支出を6兆3700億ドル、前年比14.2%増と予測しました。注目すべきは総額ではなく、伸びが特定の領域に極端に偏っている点です。
表. 世界のIT支出予測 (米ドル)
|
2026年支出額 |
前年比 |
データセンター |
8220億ドル |
62.5%増 |
IaaS |
2870億ドル |
29.3%増 |
ソフトウェア |
1兆4680億ドル |
15.5%増 |
デバイス |
8680億ドル |
9.8%増 |
サービス |
1兆5700億ドル |
5.3%増 |
1兆3540億ドル |
4.4%増 |
|
世界IT支出総額 |
6兆3690億ドル |
14.2%増 |
出典: Gartner (2026年7月)
ガートナーのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストである John-David Lovelockは、AIに必要な計算能力の構築を「人類がこれまでに試みた最大のインフラ・プロジェクト」と表現したうえで、次のように述べています。
「支出が大きく伸びているとはいえ、これは上げ潮がすべての船を持ち上げるような市場トレンドではない」
市場全体が14.2%増えるからといって、自社のIT予算が同じ率で潤沢になるわけではありません。増えるのは支出であって、裁量ではないからです。
構造はAIインフラの側でより鮮明です。ガートナーは2026年8月、AIに最適化されたIaaSへの支出が2026年に420億ドル、前年比96.4%増に達すると予測しています。さらに同年には推論(インフェレンス)向けの支出が233億ドルとなり、学習向けの190億ドルを上回る見込みです。
学習は一過性の投資ですが、推論は使い続けるかぎり発生し続けます。支出の重心が学習から推論へ移るということは、業界全体のコスト構造が、一度きりの投資から継続的な運用費へと移りつつあることを意味します。
国内の状況を見ると、経営の期待とこの構造が噛み合っていないことがわかります。
ガートナージャパンが2026年4月に発表した分析(2025年実施の「CIO/テクノロジ・エグゼクティブ・サーベイ 」に基づく)によると、社内向けの重要なデジタル施策について、日本企業のCEOがCIOやIT幹部に期待する成果は、生産性向上が89%、コスト削減が67%でした。
一方、その期待に応えられているかを見ると、「期待以下」と回答した日本企業は64%。米国企業の34%、世界全体の45%を大きく上回っています。
ガートナージャパンのバイス プレジデント アナリストである片山博之は、次のように述べています。
「CEOがCIOやIT幹部に期待する成果として生産性向上やコスト削減を上位に挙げている点は、国/地域に関係なく世界で共通しています。しかしながら、日本企業のCEOは、「期待以下」と回答した割合 (64%) が他の地域と比べて高く、成果を期待どおりに出せている企業は非常に少ないことがうかがえます」
経営の期待は変わらない。支出構造は削減を許さない。このギャップの中で、多くのIT部門が予算会議での説明に窮しています。
ここで重要になるのが、「コスト削減」と「戦略的なITコスト管理」との区別です。
ガートナーでは、IT部門が取りうる打ち手を「支出の削減(cut spend)」と「戦略的なITコスト管理(strategic IT cost management)」に分け、前者を戦略的ではない領域として外側に置いています。
削減に分類されるのは、凍結/停止、サービスレベルの引き下げ、廃止といった活動です。目的はキャッシュの確保であり、景気後退のような外的な事象への反応として発動されます。こうした活動の必要性そのものは認められますが、これらの削減は、時間とともに元に戻る傾向があります。
つまり、企業が着目すべきは「うまく削減すること」ではありません。プログラム化された、先を見越したコスト管理を行うことで、削減をせずに済む状態をつくることです。
この整理は、多くのIT部門にとって実務的な意味を持ちます。一律削減で毎年しのいでいる状態は、努力が足りないのではなく、そもそも戦略の枠外にいるということだからです。
では削減の外側には何があるのか。戦略的なITコスト管理は、3つのワークストリームに分解できます。
無駄の除去、IT提供内容の簡素化、ベンダー契約の管理によって、恒久的にコストベースを引き下げる活動です。削減との違いは、一時的に止めるのではなく、コスト構造そのものを下げる点にあります。ここに含まれるのは、無駄の除去、統廃合、再交渉の3つです。目指すのは削減額の刈り取りとなります。
効率を高め、スループットを増やし、正しいものに支出することで、既存のIT予算をさらに遠くまで届かせる活動です。追加の支出を避けながら、いまある資源からより多くを引き出します。目指すのは資源の最適化です。
高価値な機会に対して追加の資金を配分する活動です。投資先はIT自身の場合もあれば、全社のコストを下げたり売上を伸ばしたりするテクノロジ投資の場合もあります。目指すのは価値の創出です。
3つを並べると、コスト管理が「削減する仕事」ではないことが見えてきます。削減するのは3つのうち1つだけで、残りは既存予算の生産性を上げる話と、どこに投資を割り当てるかを決める話です。
もうひとつ、重要な視点として挙げられるのは、ITコストに影響を与えるレバーは「価格」と「量」の2つという整理です。
供給とは価格の話です。 事業からの需要を、可能なかぎり低い単位当たりコストで届けるための活動を指します。重要な観点は「どうすれば最も低い単位当たりコストで提供できるか」です。これは主にIT部門の責任範囲であり、事業部門の支援や承認をほとんど必要としません。
需要とは量の話です。 ライセンス、データ、労力といったITが運営するサービスの消費量、そして変更活動への要求を管理します。ここでの重要な観点は「事業が本当に必要としているものは何か」です。こちらはIT部門と事業部門の共同責任と位置づけられます。
この2軸が実務で効くのは、自部門だけで動かせる打ち手と、事業部門を巻き込まないと動かない打ち手を、事前に仕分けできるからです。需要側の課題をIT部門だけで解決しようとして消耗する、という失敗はここから生まれます。
3つのワークストリームも2つのレバーも、前提として支出の中身が見えている必要があります。しかしここには、多くのCIOが直面している構造的な問題があります。
CIOは通常、財務部門から与えられた勘定科目や資産区分(ハードウェアかソフトウェアか、など)で予算を説明することを求められます。ところが、こうした分類は、ITが届けている価値に翻訳されていません。そのため多くのCIOが、複雑なExcelのコストモデルやITFMツールで定義を拡張しようとします。
このような状況下において、事業に沿った形でIT支出を見せられなければ、CIOは信頼、影響力、そして最終的には予算の裁量を失うリスクを負うことになります。支出が増える局面では、この指摘の重みが増します。総額が増えていく中で、勘定科目の言葉しか持っていなければ、増加はただの膨張として扱われるからです。
ガートナーでは、複雑なコストモデルを構築することに課題を抱くCIOのために、支出をアプリケーションやサービスにマッピングする簡易な手法も用意しています。そこでは、支出をコミットメントの度合い(支払済み、契約上拘束されている、現状維持に必要、裁量的)で切り分け、予算のうちどれだけが本当に動かせるのかを可視化します。あわせて、ユーザー単位や取引単位での運用コストを算出し、コストドライバーを特定します。前節の「単位当たりコスト」が、ここで具体的な数字になります。
なお、各区分の判定基準と算出の手順、および可視化のアウトプットについては、ガートナーのリサーチサービスをご利用のお客様向けに、そのまま使えるモデルの形でご提供しています。
コストが減らせないことは、コストを管理できないことを意味しません。総額が動かせないときほど、どのワークストリームに手をつけるかが重要となります。
関連・参考資料
ガートナーは両者を別のものとして扱っています。支出の削減は、凍結/停止やサービスレベルの引き下げなど、外的な事象への反応として現金を確保する短期的な活動であり、戦略の外側に位置づけられています。一方、戦略的なITコスト管理は、コストベースを恒久的に下げる、既存予算のパフォーマンスを改善する、事業成果に投資する、という3つのワークストリームで構成されます。
ガートナーは、反応的で短期的な支出削減について、時間とともに元に戻る傾向があり定着しないと考えています。削減をうまく実行することに目標を置くのではなく、プログラム化された、先を見越したコスト管理を行うことで、そもそも削減をせずに済む状態をつくることに着目することが重要です。
3つあります。1つ目は「コストを下げる」で、無駄の除去、統廃合、再交渉によってコストベースを恒久的に引き下げます。2つ目は「パフォーマンスを改善する」で、効率とスループットを高め、既存のIT予算をさらに遠くまで届かせます。3つ目は「事業成果に投資する」で、高価値な機会に追加の資金を配分します。削減はこのうちの1つにすぎません。
支出をコミットメントの度合いで切り分けると見えてきます。ガートナーは、支払済み、契約上拘束されている、現状維持に必要、裁量的、という区分で支出を分類し、予算のうちどれだけが本当に動かせるのかを可視化する手法を示しています。
財務部門から与えられた勘定科目や資産区分は、ITが届けている価値に翻訳されません。支出をアプリケーションやサービスにマッピングし、事業に沿った形で見せることが必要です。これができなければCIOは信頼、影響力、そして最終的には予算の裁量を失うリスクを負うでしょう。
ガートナーは2026年の世界IT支出を6兆3700億ドル、前年比14.2%増と予測しています(2026年7月時点)。伸びは領域によって大きく偏っており、データセンターシステムが62.5%増、IaaSが29.3%増である一方、通信サービスは4.4%増にとどまります。
本記事で紹介した戦略的コスト管理のフレームワークは、ガートナーのリサーチサービスをご利用のお客様向けに、実行レベルまで具体化した形で提供しています。ワークストリームごとの実施手順、パフォーマンス改善の成功指標、IT予算を事業の言葉に翻訳するためのコスト配分ツールなど、明日から着手できる形のコンテンツとアナリストへの問い合わせをご利用いただけます。