ソブリンクラウドとは?Gartnerが示す3つの主権と優先順位の決め方

ソブリンクラウドに、企業は何から取り組むべきでしょうか?Gartnerは、主権の確保にはコストと複雑さが伴うため、そのトレードオフに見合う重要なワークロードに絞るべきだと指摘しています。全システムの一律移行ではなく、規制要件とリスクで優先順位を付けることが出発点です。ソブリンクラウドとは、データの保存場所・運用権限・技術基盤を自国または自社の統制下に置くことを目的としたクラウドの形態です。

2026年10月9日更新

ソブリンクラウドへの取り組みを、どこから始めるべきか?

規制に対応するフレームワークづくり、コンプライアンスの自動化、クラウド・パートナーの多角化という3つの実践策を、Gartnerが解説します。

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本eBookでは、クラウド主権への対応をインフラ・運用部門の視点で整理しました。Gartnerの3つのフレームワーク(ソブリン・クラウド戦略に欠かせない特性、クラウドIaCの活用、オペレーションの主権を実現するための解決策)を掲載しています。

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この記事のポイント

  • 世界のソブリンクラウドIaaS支出は、2026年に800億ドル(前年比35.6%増)に達するとGartnerは予測しています

  • Gartnerは、デジタル主権を「データ主権」「オペレーション主権」「テクノロジ主権」の3つの領域で捉えています

  • 統制にはコストと複雑さが伴うため、すべてを移すのではなく、リスクの高いワークロードや規制対象のワークロードに投資を集中すべきだとGartnerは指摘しています

  • ソブリンクラウドへの取り組みは、規制対応のコストではなく、事業継続と競争力を高めるための投資として捉えることが重要です

ソブリンクラウドとは ― デジタル主権を確保するためのクラウド

ソブリンクラウドとは、データの保存場所だけでなく、運用の権限や技術基盤まで含めて、特定の国・地域の法令と統制のもとに置くことを目的としたクラウドです。その土台にあるのが「デジタル主権」という考え方です。

Gartnerは、デジタル主権を「企業が外部からの影響を受ける中で継続的なイノベーション、レジリエンス、コンプライアンスを確保しながら、データ、オペレーション、テクノロジに対するコントロールを維持する能力」と定義し、次の3つの領域で捉えています(出典:Gartner「新興テクノロジのエグゼクティブ・ブリーフィング:デジタル主権」2026年9月)。

  • データ主権:データへのアクセスと、データの所在に対するコントロール

  • オペレーション主権:クラウド事業者などプロバイダーの行動に対する可視性とコントロール

  • テクノロジ主権:プロバイダーに依存しない自律性と継続性

ソブリンクラウド(Gartnerの表記では「ソブリン・クラウド」)は、この3つの主権を確保するための選択肢の1つです。「国内にデータセンターがあるクラウド」と同じ意味ではありません。

ジオパトリエーションとは

ジオパトリエーションとは、地政学リスクを理由に、データやアプリケーションをグローバルなパブリッククラウドから、ソブリンクラウドや地域のクラウド事業者、自社のデータセンターへ移すことです。Gartnerは2025年10月、これを「2026年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の1つに選んでいます。

なぜいまソブリンクラウドが経営課題になったのか

Gartnerは、デジタル主権がいまや取締役会レベルの優先課題になったと指摘しています。対応を怠れば、事業運営・財務・コンプライアンスの各面で損失を被り、規制上の罰則を受けるおそれがあるためです。

Gartnerのバイス プレジデント アナリストであるCarolin Zhouは、クラウドとAIのプラットフォームを完全に把握し統制できる状態は、もはや任意ではなく、運用の独立性とレジリエンスに欠かせないと述べています(2026年8月)。データやオペレーションに対するコントロールが不足していれば、制裁や地政学的な強制措置によって事業が即座に止まるリスクがある、というのがGartnerの見方です(2026年9月)。

Gartnerの予測:支出は2026年に800億ドル規模へ

Gartnerは2026年2月、世界のソブリンクラウドIaaS支出が2026年に800億ドルに達し、前年から35.6%増えるという予測を発表しました。

ソブリンクラウドIaaS支出の予測:日本と世界

地域

2025年

2026年

2027年

日本

5億1,900万ドル

9億3,200万ドル

18億1,600万ドル

世界合計

593億ドル

804億ドル

1,106億ドル

Gartnerは、2030年までに米国以外の企業の75%超が、ソブリンクラウド戦略に支えられたデジタル主権戦略を持つとも予測しています(2025年11月発表)。

デジタル主権は「データ・オペレーション・テクノロジ」の3領域にまたがる

Gartnerは、デジタル主権を「データ主権」「オペレーション主権」「テクノロジ主権」の3つの領域で捉えています。コンプライアンス対応だけの話ではなく、3つの層それぞれで、誰が何を統制するかを決めることが要点です。

データ主権:データの保存場所と法令順守を統制する

データ主権とは、データを保存・処理・管理する場所を統制し、その国・地域の法令に従うことです。Gartnerは「データ主権スペクトラム」を使い、厳格なデータ・ローカライゼーション(国内での保存・処理の義務付け)から中程度の監督まで、要件を地域別に整理することを勧めています。

オペレーション主権:インフラと運用権限を自社が保持する

オペレーション主権は、データの所在ではなく「誰がITシステムを運用し、支援するか」の問題です。事業者による運用、スタッフのアクセス権、特権的な認証情報の管理が統制の対象になります。EUのNIS2指令やDORA、米国のCLOUD Actなどへの対応から、顧客管理の暗号鍵や現地のサポート要員といった要件が生じています。

ただしGartnerは、こうした統制にはコストと複雑さが伴うため、トレードオフに見合う重要なワークロードに絞るべきだとしています。これが、次章で扱う優先順位付けの出発点です。

テクノロジ主権:海外ベンダーへの依存を減らしIT回復力を高める

テクノロジ主権とは、ハードウェア・ソフトウェア・AIシステムを、海外の事業者に過度に依存せずに開発・保有・管理できることです。Gartnerのデータでは、企業の60%がセキュリティリスクの増大を挙げ、43%が競争力の喪失を懸念し、31%がデータ所在の不確実性に直面しています(2026年7月)。

すべてを移すべきではない ― 優先順位を決める5つのステップ

Gartnerは、主権の確保にはコストと複雑さが伴うため、リスクの高いワークロードや規制対象のワークロードに投資を集中すべきだとしています。優先順位は、次の5つのステップで決めます。

  1. 主権の目標を定め、直ちにリスクを抑えるべき領域を特定する

  2. 法務・コンプライアンス・セキュリティ部門と統制範囲を定める

  3. リスクの高いワークロードに投資を集中する

  4. 出口戦略を設計し、特定の事業者への依存を減らす

  5. 運営モデルとガバナンスを再設計し、定期的に見直す

時間軸の目安として、Gartnerは、目標設定とリスク軽減が急がれる領域の特定に直ちに着手し、90日以内に現在のテクノロジ資産とベンダーの主権リスクを評価し、1年以内に国外への依存を減らす方向でデプロイ・モデルを見直すよう、CIOに勧めています(2026年9月)。

目指すのは「完全な主権」ではない

Gartnerは、企業が目指すデジタル主権は国家や政府が目指すものとは異なり、混同すべきではないとしています。包括的なテクノロジを自社で構築するのは現実的ではなく、企業は契約上の保護措置や技術的なコントロール、サプライヤーの多様化によって主権を確保することになります。そもそも現時点では、完全なデジタル主権はどこであっても達成できず、望ましいものでもないとGartnerは結論づけています(2026年9月)。

Gartnerの推計でも、ジオパトリエーションによってローカルのクラウド事業者へ移るのは現行ワークロードの20%で、ソブリンクラウドIaaS支出の80%は、新規のソリューションか未移行のレガシー・ワークロードから生まれます(2026年2月)。全面移行ではなく、選別が前提です。

ステップ1:主権の目標を定め、直ちにリスクを抑えるべき領域を特定する

データ主権・オペレーション主権・テクノロジ主権のそれぞれについて自社の目標を定め、自社に適用される規制を国・地域ごとに洗い出したうえで、直ちにリスクを抑えるべきデータとワークロードを特定します。Gartnerのシニア ディレクター アナリストであるRene Buestは、クラウド導入が遅れていた組織ほど、業務ごとに最適なクラウドを慎重に選べる有利な立場にあると述べています。移行途上の企業には、主権を最初から設計に組み込む好機です。

ステップ2:法務・コンプライアンス・セキュリティ部門と統制範囲を定める

主権の要件は、IT部門だけでは判断できません。法務・コンプライアンス・セキュリティの各部門と、運用アクセスの範囲、サポート要員の所在、暗号鍵の管理方法を決めます。

ステップ3:リスクの高いワークロードに投資を集中する

データの機密性、規制要件、停止時の事業への影響の3つの軸でワークロードを分類し、投資先を絞ります。

ワークロード分類の例

区分

判断基準の例

検討する提供モデルの例

最優先

規制で国内保存や運用統制が求められる、停止すると事業継続に重大な影響が出る

ローカル事業者のソブリンクラウド、自社運用

統制強化

機密データを含むが、規制上の要件は限定的

グローバルクラウドを使いつつ、暗号鍵の自社管理やアクセス統制を強化

現状維持

公開情報など、機密性の低いデータが中心

グローバルクラウドを継続

ステップ4:出口戦略を設計し、特定の事業者への依存を減らす

Gartnerは、特定の事業者への依存を減らす出口戦略の策定を勧めています。移行先を選ぶ段階で、データの持ち出し方や移行期間まで含めた「抜け出し方」を設計しておきます。

ステップ5:運営モデルとガバナンスを再設計し、定期的に見直す

Gartnerは、自律性とレジリエンスを支える運営モデルへの見直し、独自仕様への依存を抑えるアーキテクチャ・ガバナンス、ベンダーとの関係の定期的な再評価を挙げています。主権は、規制や地政学の変化に合わせて見直し続けるものです。

クラウド主権の課題と実践策を、さらに詳しく

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インフラ・運用部門が直面する3つの課題と実践策、そして「ソブリン・クラウド戦略に欠かせない特性」を、GartnerのeBookで解説しています。

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ソブリンクラウドの提供事業者をどう評価するか

Gartnerは、クラウドやAIの事業者を選ぶ際、データ・ローカライゼーション、ソブリン版サービスの機能の同等性、規制対応の実績、法域の境界、運用統制、パートナー基盤、現地の人材の7つの観点で評価するよう勧めています。

データ・ローカライゼーションと機能の同等性

国内でのデータ保存に対応しているかに加え、ソブリン版のサービスが通常版と同等の機能を備えているかを確認します。主権を優先した結果、使える機能が限られれば、業務やAI活用の足かせになりかねません。

規制対応の実績・法域の境界・運用体制

対象となる規制への対応実績、事業者がどの国の法律の適用を受けるか(法域の境界)、運用統制の強さ、パートナーのエコシステムの厚み、現地で対応できる人材の有無を見極めます。

調達・契約の進め方

Gartnerはリサーチノート「ソブリン・クラウド調達の7つのステップ」(2026年6月)で、ソブリンクラウドを単なるプラットフォームではなくITサービスのデリバリ・モデルの選択肢と位置付け、ベンダー・ロックインを避けながら適切な主権を確保すべきだとしています。

ソブリンクラウドの経営判断に必要な3つの視点

Gartnerは、デジタル主権を規制上の義務としてではなく、技術のレジリエンスとビジネス成果を高める戦略的な機会として捉えるべきだと提言しています。経営として判断すべきは、「なぜ今取り組むのか」「何を守るのか」「どこに投資し、何を得るのか」の3点です。

視点

問い

判断の材料

時間軸

なぜ今取り組むのか

取締役会レベルの課題になっていること、対応しない場合の損失と罰則のリスク、市場の動き

守る対象

何を守るのか

3つの主権のうち自社が優先する領域と、最優先のワークロード

投資と効果

どこに投資し、何を得るのか

投資を集中する範囲、段階的な計画、事業継続とAI活用への効果

規制への対応だけを目的にすると、主権の確保は「守りのコスト」にとどまります。どのデータと業務を自社の統制下に置くかを決めることは、事業の継続性を高め、AIを安心して活用するための土台づくりにもつながります。

「自社の主権は、自社でしか守れない」

Buestは、組織のデジタル主権を守るのはクラウド事業者でもサービス事業者でもなく、CIOとITリーダー自身だと強調しています。主権の確保は事業者に委ねるものではなく、自社が主導して取り組むべき経営課題です。

データ主権はこの先どうなるか

Gartnerは、AIを支えるクラウド基盤について、コンプライアンス、データ・プライバシー、テクノロジ主権を確保する統制を整えることが、クラウド戦略を変革するうえで欠かせない一歩になるとしています。

ガートナージャパンの「日本におけるクラウドとAIのハイプ・サイクル:2026年」(2026年9月)も、ソブリンAIやデータ主権を含めた総合的なAI戦略が競争力を左右すると指摘しています。Gartnerは、AI主権はデジタル主権の3つの層すべてにわたるとしており(2026年9月)、クラウドとAIの主権は一体で考える必要があります。

まとめ

  • ソブリンクラウドは、データ・オペレーション・テクノロジの3つの主権を確保するためのクラウドで、データの置き場所だけの問題ではない

  • Gartnerは、リスクの高いワークロードや規制対象のワークロードに投資を集中すべきだとしている

  • 主権の確保は、規制対応のコストではなく、事業継続と競争力を高めるための経営課題として捉える

ソブリンクラウドに関するよくある質問(FAQ)

ソブリンクラウドとは何ですか。なぜCIOにとって重要なのですか?

ソブリンクラウドとは、データの保存場所・運用権限・技術基盤を、特定の国・地域の法令と統制のもとに置くことを目的としたクラウドです。Gartnerは、デジタル主権が規制の圧力と地政学リスクを背景に取締役会レベルの優先課題になったと指摘しており、CIOが主導して取り組むべきテーマです。


Gartnerはソブリンクラウド市場をどう予測していますか?

Gartnerは2026年2月、世界のソブリンクラウドIaaS支出が2026年に800億ドルに達し、前年から35.6%増えるという予測を発表しました。日本の支出も、2025年の5億1,900万ドルから2027年には18億1,600万ドルへ拡大する見通しです。


データ主権の要件はどのように評価すればよいですか?

Gartnerは、「データ主権スペクトラム」を使って、地域ごとの順守要件と運用上のリスクを整理することを提言しています。そのうえで、厳格なデータ・ローカライゼーションが必要な地域と、中程度の監督で足りる地域を見極めます。


オペレーション主権を実現するには何から着手すべきですか?

Gartnerは、顧客が管理する暗号鍵、現地のサポート要員、厳格な特権アクセス管理によって、重要なシステムを誰が運用するかを統制するよう提言しています。あわせて法務・コンプライアンス部門と連携し、規制要件との整合を取ることが重要です。


すべてのシステムをソブリンクラウドに移すべきですか?

Gartnerは、主権の確保にはコストと複雑さが伴うため、トレードオフに見合う重要なワークロードに絞るべきだとしています。Gartnerの推計でも、ローカルのクラウド事業者へ移るのは現行ワークロードの20%です(2026年2月時点)。


出典・参考資料

Gartner IT Symposium/Xpo™

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