AIの進化が加速する中、「AGI(汎用人工知能)」は次なる転換点として注目を集めています。人間と同等の知的能力を持つとされるAGIは、ビジネスや社会に何をもたらすのか。本ガイドでは、AGIの定義や進化の兆し、そして企業が今考えるべき備えについて解説します。
AIの進化が加速する中、「AGI(汎用人工知能)」は次なる転換点として注目を集めています。人間と同等の知的能力を持つとされるAGIは、ビジネスや社会に何をもたらすのか。本ガイドでは、AGIの定義や進化の兆し、そして企業が今考えるべき備えについて解説します。
2025年6月10日更新
AI 活用によってビジネス機会をつかむためには、AI をどのような目的で、どの程度まで活用するのかを早期に決定し、明確な計画を示すことが重要です。そして、以下の3 つの領域で組織をAI-Ready (AI 導入目的を達成するための準備ができている状態) にする必要があります。
本eBook「AI の活用機会を理解する - 成功に向けてIT チームの準備を整える」では、AI-Readyになるために知っておくべきこと、今すぐ実行すべきことを明確にし、AIを利用する機会とリスクを理解し、AIにまつわる複雑な状況を打破するための知見をご提供します。
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汎⽤⼈⼯知能 (Artificial General Intelligence: AGI) は「強いAI」とも呼ばれ、⼈間が実⾏できるあらゆる知的タスクを遂⾏可能なマシン‧インテリジェンス (現時点では仮説段階) を指します。AGIは、さまざまな現実環境または仮想環境で⼈間と同等以上に効果的に⽬標を達成できる、未来の⾃律型AIシステムに起因する特性です。
先述した通り、AGIは現在仮説段階にありますが、現時点でAGIは人間の行う知的タスクを全て遂行できる機械の知能とされています。AGIは、広範な現実または仮想環境において、人間と同等以上に効果的に目標を達成できる自律型AIシステムに帰属する特性であることが示唆されています。
一方、現在のAI技術、例えば生成AIモデルは、以前は不可能と考えられていた創造性や推論能力の一部を示すなど、目覚ましい進歩を遂げています。また、マルチドメインおよびマルチモーダルな能力(言語とビジョンを数学から芸術までの領域で組み合わせる能力)も、現在のAIとAGIとの間の隔たりを縮めつつあります。
AGIは、現在のところ実現していない理論上の仮説的な概念であるため、現在のAI技術との相違点というよりは、生成AIなど現在のAI技術の進化を踏まえて、どのように今後多面的に発展し、AGIへと向かっていくのかという観点からご説明いたします。
生成AIや大規模言語モデル(LLM)は、すでに創造性や推論力をある程度備えており、言語と視覚をまたぐマルチモーダルな能力を示しています。これにより、AGIの実現に必要とされる知能の一部は、すでに形を成してきているという見方もあります。
AIの発展は加速度的に進んでおり、モデルの高度化とデータ活用の拡大によって、ある閾値を超えたときに、それまでは見られなかった創発的な現象が現れ、これらは観察され始めています。一部の研究者は、人間の脳を模倣したネットワークによって、より汎用的かつ効率的なAIが構築できると期待しています。
Anthropic、Google や OpenAIなどの企業は、AI研究開発に数十億ドル規模の投資を実行しています。影響力のあるプレイヤーは、AGI専任部門の設置やスーパーコンピュータの開発など、AGIを現実の目標として据えた取り組みが加速しています。
AGIの価値については、AGIが「何であるか」ではなく、「何をするべきか」を追求することで、複雑な動的課題を解決する手段として、終わりのない議論から抜け出す洗練された方法を見出すことが可能です。例えば、気候変動や貧困、社会的分断といった、従来の手法では解決が難しい「厄介な問題」(「戦略的柔軟性の維持と継続的な監視 - 法規制および倫理的枠組みの予測」を参照)に対応するには、複数の領域にまたがる知識と柔軟な判断能力を備えたAIが必要とされます。
AGIの進化に伴い、「知能とは何か」という定義や評価のあり方も問われています。従来のベンチマーク中心の評価では、人間の常識や創造性、倫理的判断といった重要な能力が捉えきれないため、企業は独自の評価軸を構築する必要があります。
AGIは人間の代替ではなく、情報処理や分析はAIに任せ、人間は創造的な課題解決に集中する「協調的な知能拡張」を目指すことができます。今後は益々、多様な視点や認知スタイルを活かし、組織全体の集合知を強化する方向での活用が求められるようになるでしょう。
AGIの到達時期については予測が分かれています。近い将来とする見方もあれば、数十年先とする慎重な予測も存在します。AGIは単一の完成形ではなく、段階的に進化していくと捉え、柔軟かつ継続的に備える姿勢が重要です。
AGIの進展は、技術の飛躍的進化と巨額投資を背景に、定量的なタスク処理から、より複雑で本質的な社会課題への対応へとシフトしつつあります。企業や組織は、知能の捉え方を見直し、人間とAIの共創によって、実践的で持続可能なイノベーションを目指すべき段階に来ています。
AGIは、企業や組織に大きな変革をもたらす可能性がある一方で、慎重なガバナンスとリスク管理を必要とする多くの課題を伴います。企業や組織は、AGIの動向を監視しながら、現在のAI戦略のリスクを評価し、倫理的および法的遵守を確保するための適切なガバナンス・フレームワークを構築していくことが極めて重要となります。ガートナーは以下の事項を推奨します。
AGIは今日まだ存在しない仮説上の概念であるため、「未来のシナリオ」として扱われるべきです。AGIに関する議論において最も重要な点は、AGIが「どうあるべきか」ではなく、「何をすべきか」を模索することです。
前出の「厄介な問題」とは、従来の高度な分析や自動化の手法では解決できない、明確な線引きや定式化がされていない、多領域の知識を必要とする問題です。これは「察知して対応する」アプローチを必要とし、解決策が一つではなく、複数の並行した継続的学習を要します。また、ステークホルダーの強い信念や価値観と結びつきやすく、対立が生じることがあり、解決策自体が問題の一部になる可能性もあります。
具体的な「厄介な問題」の例としては、気候変動、貧困、水不足、社会の分極化などが挙げられます。AGIがこれらの問題に取り組む潜在的なビジネス・ユースケースを調査していく必要があります。
競合他社や影響力のあるテクノロジ企業(Amazon、DeepSeek、Google、Meta、OpenAIなど)の動向、そして「Stargate Project*1」のような大規模なAIインフラ投資の動きを継続的に監視します。
AIシステムの意思決定プロセスを理解し信頼するために、説明可能性と柔軟性との両立が可能なAI投資へのアプローチを進めます。これにより、AIがより高度なタスクを遂行する際に、その判断の根拠を説明できるようになり、信頼性の高いシステムを構築できます。
具体的には、透明性、公平性、説明責任を備えたAIシステムの設計と開発に実験的に投資する場合には、例えば、シンボリックAI*2とコネクショニズム*3の双方の利点を組み合わせるアプローチに着目します。長期的な視点では、コンポジットAIやニューロシンボリックAIといった、学習と推論の融合(シンビオーシス) を注視します。これこそがAGIへの道筋となる可能性があります。すなわち、推論と学習の両⽅を可能とし、柔軟性がありながらも説明可能で構造化されたAIの実現です。
*1 Stargate Project
2025年1月に、Stargate Projectが発表されました。このプロジェクトでは、今後4年間で5,000億ドルを投資し、米国でOpenAIの新しいAIインフラストラクチャを構築する計画です。
出典: Stargate Projectを発表 (OpenAI、2025年1月21日付) ※外部サイトへリンク
*2 シンボリックAI
明確な知識に基づいた推論⼒ [説明可能性や正確性] を重視。論理的推論や明⽰的な知識表現に依拠します。
*3 コネクショニズム
脳のニューロンのつながりに着想を得たAIのアプローチであり、ディープ‧ラーニングや⽣成AIなどがこれに含まれます。知能はデータ駆動の学習やニューラル‧ネットワークによってモデル化されます。
AGIへと向かう時代は、技術的な側面だけでなく、組織文化、倫理、社会への影響という多角的な視点から、包括的なガバナンス・フレームワークを必要とします。CIOやIT領域のエグゼクティブ・リーダーは、この複雑な状況をナビゲートし、長期的な企業価値と社会的責任を両立させていくための投資を継続すべきです。
そして、AGIについては専門家の間でもしばしば相反する意見が存在します。このことは、組織内でも同様である可能性が高いでしょう。よって、複数の視点を認識して尊重し、すべての関係者を巻き込む必要があります。すなわち、AGIの未来には、さまざまなシナリオが存在し得ることを理解すべきです。
AGIを含むAIの進化は、単なる技術革新ではなく、戦略、組織、リスク管理に対する考え方を根本から問い直す契機となります。不確実性が高まる中、企業や組織は、技術の可能性と限界を見極めたうえで、現実的かつ柔軟なAI活用戦略を描くことが求められます。
ガートナーは、AGIや生成AIに関する議論を、未来予測に終始させるのではなく、現在の具体的なビジネス課題と結びつけて検討することを推奨しています。AGIの可能性を「何をすべきか」の視点から捉え、経営層およびエグゼクティブ・リーダーの意思決定を支えるリサーチ、フレームワーク、エキスパートとの対話をご提供しています。
AGIの時代を見据えた備えには、技術投資だけでなく、倫理的配慮、法規制対応、AIガバナンス体制、そしてAIと協働できる組織能力の強化が不可欠です。ガートナーは、これらの領域を統合的に支援し、リスクを抑えつつ競争優位を築くための指針をご提供します。
ガートナーは、企業や組織がAIと共生しながら持続可能な成長を実現するための信頼できるパートナーであり続けます。将来のAGIを見据えつつ、今取り組むべき戦略と実行への支援を通じて、お客様の価値創出を力強く後押しいたします。
監訳:亦賀 忠明/オリジナル・レポート:G00827357
汎用人工知能は、これから1~2年で登場するという見方が強まっています。しかし、そうした見方を否定する声もあります。Gartner Futures Labは、5つの大胆な見方を紹介し、汎用人工知能というテーマに関して企業の重要な意思決定を支援します。本リサーチノートは、特定の見方のみを支持するものではありません。すなわち、市場や企業内にあるさまざまな意見を尊重することを前提とします。
2025年の展望:「産業革命」とAIがもたらす破壊的な未来へ対応する
著者:亦賀 忠明
自動車業界やメディア業界を中心に「産業革命」がリアルになりつつあります。さらにAIは、超知性に向けて急速に進化しようとしています。ITリーダーは経営者と共に、かつてない破壊的トレンドへの真剣な対応を開始すべきです。
2025年の展望:クラウドとAIの「スーパーパワー化」に備える
著者:亦賀 忠明, 青山 浩子
クラウドは「AI入りクラウド」となり、年間数兆円が投入されるハイパーAIスパコン、すなわち新たなスーパーパワーになります。このメガトレンドは、スーパーパワーを武器として使うユーザーとそうでないユーザーに圧倒的な競争上の差異をもたらし、企業や国の存亡を大きく左右するため、ITリーダーは経営者と共に今すぐ準備を開始すべきです。
How to Think About Artificial General Intelligence
(AGIをどのように考えるか)
著者:Philip Walsh
人工汎用知能(AGI)に関する急速に発展するフレームワークとベンチマークは、知能を客観的に測定可能な固定された特性として扱っています。本リサーチでは、テクノロジおよびビジネスのリーダーが、AGIに関する組織の期待と懸念を適切に管理し、現実的な立場を維持するために、知能の理解を再定義する必要性を説明します。※本リサーチノートは英語でのご提供となります。
Maverick Research: Artificial General Intelligence Is in the Eye of the Beholder
(Maverickリサーチ:AGIは見る人によって異なり、主観的な解釈に依存する)
著者:Philip Walsh
AGIの定義とベンチマークは、知能を客観的に測定可能な固定された特性として扱っています。本リサーチでは、マシンに知能を付与することは、エンジンの馬力を検証するよりも、芸術作品が美しいと称する行為に近いかも知れないと主張しています。※本リサーチノートは英語でのご提供となります。
※Gartner のサービスをご利用のお客様は、上記レポートの詳細をご覧いただけます。契約されているサービスにより閲覧いただけないドキュメントもございますので、ご了承ください。
CIOとITリーダーのための
IT戦略コンファレンス
年間20万件を超えるITリーダーとの対話と、継続的に収集・分析されたデータに基づくリサーチから得られた知見をもとに、CIOとITエグゼクティブが未来の戦略を描く世界クラスのコンファレンス、それが Gartner IT Symposium/Xpo™ です。
CIOやITリーダーが一堂に会し、次のような価値を得ています:
現地のエキスパートから直接得られる、最先端テクノロジに関する知見
同業他社やサービス・プロバイダーとの、実務に直結するネットワーキング