2020年3月以降は、COVID-19の拡大防止に向けた対応の一環として、多くの企業が在宅勤務を実施したり不要不急の外出を控えたりする方向へ行動をシフトさせています。これに伴い、Web会議ソリューションを利用するユーザーの数や利用頻度は大きく増えましたが、同時にさまざまな課題も表面化しました。
アナリストでバイス プレジデントの池田 武史は、次のように述べています。「今日、Web会議ソリューションに関しては、これまで想定していた以上のさまざまな用途に期待が集まっています。一方で、テクノロジのポテンシャルを正しく理解しなければ、性能やセキュリティなどの過大評価あるいは過小評価につながり、その効果を十分に発揮させることはできません」
2020年3~6月にガートナーが受けた問い合わせから判明した、Web会議ソリューションの利用に際して企業が直面している課題を抜粋し、以下で説明します。
利用環境に起因する品質問題や、製品/サービスの選定に関する課題
Web会議ソリューションは、急速に進んだ外出制限をカバーするツールとして、利用が爆発的に膨らみました。そうした中で、従業員宅の通信環境やVPNを経由するリモート・アクセスの負荷増大に起因する音声/映像の品質劣化問題や、製品/サービスの選定に関する課題が浮き彫りになりました。
自社が採用しているWeb会議ソリューションの音声や映像の品質が悪いという声はよく聞かれます。Web会議ソリューションはそもそもベスト・エフォートのネットワークで利用されることが前提となるため、音声/映像の品質はしばしば利用環境に左右されます。Web会議ソリューションには完全な品質は求められないと認識した上で利用することが重要です。
ここでIT部門が取るべき基本的な対策は、品質劣化を引き起こすボトルネックを特定し、その過負荷の解消に努めることです。例えば、契約回線の帯域の見直しやVPN機器の増強が挙げられます。会社支給のモバイル端末を利用し、通信環境を改善する手も考えられるでしょう。PCでWeb会議ソリューションを使用する場合は、無線LANから有線LANに切り替えることでも、ある程度品質を向上させられます。帯域を使いすぎないように会議では映像を利用せず音声のみを使うという企業もありますが、本テクノロジのメリットを十分に得るためには、こうした策は極力避けるべきです。
ツールの選定についても多くの相談が寄せられました。全従業員が共通して利用するコミュニケーション・ツールとして採用するのか、利便性や管理性の観点から採用するのかによっても、選ぶツールは異なってきます。この場合、会議の参加者や目的に応じて複数のツールを使い分けることが1つの選択肢となるでしょう。
セキュリティ上の懸念に関する課題
Web会議ソリューションをビジネスで利用する際に注意すべきことは、本ソリューションはそもそも、インターネット上でより多くの人と簡単につながり、効果的なコミュニケーションの実現を目指すテクノロジだという点です。移動せず人とすぐに「会う」ことができ、ビジネス上のメリットが得られる半面、この性質自体がリスクを内包しやすく、セキュリティ上の懸念が常に付きまとうことを理解しておかねばなりません。
Web会議ソリューションを利用する際のセキュリティを巡る懸念事項としては、例えば以下が挙げられます。
- 誰と誰がいつ会議をするのか分からない。
- ほかのアプリケーションとの連携により、情報が漏れるかもしれない。
- 先方から指定されたツールはそもそも管理できない。
- 会議に参加している人が本人なのか分からない。
- 会議の内容を他人に漏らす人がいるかもしれない。
多くの製品に、ビジネス上の利用に付随するさまざまなリスクへの対策が盛り込まれていますが、そうした対策が適切に有効化されない事態も考慮したセキュリティ対策を施すことが不可欠です。
特に、今後はベンダー間の顧客獲得競争がいっそう激化するとみられ、その結果、利便性向上を目指した新機能が次々に追加される可能性があります。それに伴い、新たな脆弱性が露呈することも想定されます。まず取るべき対策は、法人向けのサービスを利用し、アカウントや会議参加者の把握および制限を可能にすることと、パスワードを設定し、第三者が容易に会議に参加できないようにすることです。その上で、ビジネスでの利用においては、音声/映像および画面共有を介したコミュニケーションに限定し、Web会議ソリューションに実装されているファイル転送/共有機能の利用や、別のアプリとの連携を安易に許可しないことが重要になります。
また、社外の相手が希望するツールを使って会議に参加する場合は、自社でそのツールを管理できません。したがって、社内標準デバイスの利用や、セキュリティ・ゲートウェイ経由での利用を会議参加の前提とする対策を取ります。具体的には、PCやモバイル端末などのエンドポイントの管理ツール、および社内ネットワーク管理ツールを用いて、Web会議ツールの利用動向の把握ならびに、必要に応じたフィルタリングを実施することが有効です。
上記のセキュリティ対策に加え、社内であろうと社外であろうと、すべてのコミュニケーションには通常の社外コミュニケーションと同等のコンプライアンスが適応されることを改めて周知させる必要があります。さらに、Web会議では実際の参加者が当該の会議に招待された本人かどうかを見極めるのが難しい点に留意し、社内で継続的に啓発活動を行うことが重要です。
そのほか、従来の対面会議をオンライン化する目的以外でのWeb会議ソリューションの利用についても、多くの問い合わせが寄せられました。例えば、社外向けセミナー、社内外のオンライン・トレーニング、経営会議、株主総会、営業やフィールドワークのサポートなどに適用できないかという内容でした。
池田は次のように述べています。「ITリーダー、インフラストラクチャとオペレーション (I&O) のリーダー、セキュリティ・リーダーは、まずはすべての従業員が共通して利用できるWeb会議ソリューションを選択し、同ツールをいつでもどこでも使える環境の提供に取り組むべきです。しかし、そうした共通のツールに加え、社内外を問わずビジネスの目的に沿った別のツールが必要になるケースもあります。ビジネス部門で今後必要とされるケースに注意を払い、それぞれの会議の特性にふさわしいWeb会議ソリューションを選定できるよう感度を高めて、ツールの評価と導入に積極的に関わっていくことが推奨されます」
ガートナーのサービスをご利用のお客様は、ガートナー・レポート「Web会議ソリューションの利用において何を考慮すべきか」(INF-20-99) で詳細をご覧いただけます。
ガートナーのサービスについては、こちらをご参照ください。
https://www.gartner.com/jp/products