ガートナー2021年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド

 

2021年4月23日

分散クラウド、AIエンジニアリング、サイバーセキュリティ・メッシュ、コンポーザブル・ビジネスが、2021年のトップ・トレンドを牽引。

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新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) パンデミックで閉鎖されていた工場の従業員が職場に戻ったとき、彼らはいくつかの違いに気づきました。センサーやRFIDタグを使って、従業員が定期的に手を洗っているかどうかを確認され、監視カメラの映像で従業員がマスクに関するルールを守っているかを判断し、違反者にはスピーカーで警告されるようになっていました。さらに、これらの行動データは、職場での行動ルール策定のために、組織によって収集・分析されています。

このようにデータを収集・利用して行動を促すことを、振る舞いのインターネット(IoB: Internet of Behavior)と呼びます。組織が収集するデータの量だけでなく、さまざまなソースからのデータをどのように組み合わせ、利用するのかということを改善していくにつれ、IoBは組織の人との関わり方に影響を与え続けていきます。

IoBは、ガートナーの9つの戦略的テクノロジ・トレンドの1つであり、新型コロナと世界の現在の経済状況によって突き動かされた大混乱において、レジリエンスの高い企業が必要とする可塑性や柔軟性を高めることができます。

「IoBとは、データを使って行動を変えることです」

「2020年における前例のない社会経済的な課題は、未来の形を変え、構築する組織的な可塑性を必要としています」と、アナリストでバイス プレジデントのブライアン・バーク(Brian Burke)はバーチャルで開催されたGartner IT Symposium/Xpo™ 2020で述べました。

2021年のトレンドは、 「People Centricity (人中心)」、「ロケーションの独立性」、「レジリエンスの高いデリバリ」の3つのテーマに分類できます。

People Centricity:パンデミックによって多くの人々の働き方や組織との関わり方が変化しましたが、人がビジネスの中心であることは変わりません。今日の環境で業務を遂行するには、デジタル化されたプロセスが必要です。

ロケーションの独立性::COVID-19のパンデミックによって、従業員と顧客、サプライヤーのほか、組織のエコシステム内の全員がどこでも仕事をするようになりました。ロケーションの独立性というテーマでは、この新しい形のビジネスを支えるテクノロジ・シフトが必要です。

レジリエンスの高いデリバリ:パンデミックや景気後退など、世界の状況は変わりやすく不安定です。このような状況の中、企業は、AIなどの高度なテクノロジを利用し、規律に重点を置いたアプローチを設計して、継続的なレジリエンスを実現する必要があります。

戦略的テクノロジにある9つのそれぞれのトレンドは必ずしも単独で機能するものではありません。これらは、それぞれの特質に基づいて、相互に依存し、強化されます。組み合わされたイノベーションは、これらのトレンドの包括的なテーマでもあります。組織は、これらのトレンドを組み合わせて指針として活用することで、今後の5年先や10年先を想定した組織の適応力を高めることができます。

トップ・トレンド1:振る舞いのインターネット (IoB)

COVID-19のために行われたモニタリングの事例で示されたように、IoBはデータを使って、人の行動を変えます。日常生活で発生する「デジタル・ダスト (粒度の小さいデータ)」、つまりデジタル世界と物理的世界にまたがるデータを収集するテクノロジが増えれば、こうした情報はフィードバックのループを通じて行動に影響を与えることができるようになります。

例えば、商用車の場合、テレマティックスは急ブレーキや急旋回などの運転行動をモニターすることができます。企業はこういったデータを使用して、運転手の運転能力、経路設定、安全性を向上させることができます。

「IoBは、個々の利用目的や結果に応じて、倫理的・社会的な影響を及ぼします」

IoB は、企業の顧客データ、公共機関や政府機関が処理する市民データ、ソーシャルメディア、パブリックドメインへ展開された顔認識、位置情報の追跡など、こういった多くのソースからデータを収集し、組み合わせ、処理することができます。これらのデータを処理するテクノロジが高度化しているため、この傾向は拡大しています。

IoBは、個々の利用目的と結果に応じて、倫理的・社会的な影響を及ぼします。保険会社が健康保険料を下げるために、振る舞いを追跡するのに使用しているウェアラブルと同じものが、食料品の購入を監視するためにも使用されるかもしれません。不健康な商品を買いすぎると、保険料が高くなる可能性があるからです。地域ごとに異なるプライバシーに関する法律は、IoBの導入と規模に大きな影響を与えます。

トップ・トレンド2:トータル・エクスペリエンス

トータル・エクスペリエンスは、マルチエクスペリエンス (MX)、カスタマー・エクスペリエンス (CX)、従業員エクスペリエンス (EX)、ユーザー・エクスペリエンス (UX)を組み合わせて、ビジネスの成果を変革します。その目的は、テクノロジから従業員、顧客、ユーザーに至るまで、これらすべての要素が交差するエクスペリエンス全体を向上させることです。

「このトータル・エクスペリエンスにより、組織はCOVID-19のディスラプター (創造的破壊者) を活用できるようになります」

それぞれのエクスペリエンスを個別に改善するのではなく、これらすべてのエクスペリエンスを密接に結びつけることで、競合他社との差別化が図られ、持続的な競争優位性が生まれます。トータル・エクスペリエンスを考慮することで、COVID-19のディスラプターによるリモートワーク、モバイル、バーチャル、顧客の分散などに対処することができます。

例えば、ある通信会社は、安全性と満足度を向上させるために、カスタマー・エクスペリエンス全体を変革しました。同社はまず、既存のアプリを介して予約システムを導入しました。予約をした顧客は、店舗から75フィート (約23メートル) 以内の範囲に入ると、次の2つの通知を受け取ります。1) チェックイン・プロセスを案内する通知、2)顧客の安全性を向上するために、ソーシャル・ディスタンシング (対人距離確保) のためにどのくらい店舗外で待つ必要があるかを知らせる通知。

また、同社はサービスを調整してデジタル支払いキオスクを増やし、従業員が自分のタブレットを顧客のデバイスとリンクし、顧客をガイドできるようにしました。その結果、顧客と従業員にとって、より安全で、よりシームレスで、統合された総合的なエクスペリエンスを提供することができました。

トップ・トレンド3:プライバシー強化コンピュテーション

プライバシー強化コンピュテーションは、データの使用中にデータを保護する3種類のテクノロジで構成されています。1つ目は、機密データの処理や分析を行うために信頼できる環境を提供するテクノロジ。2つ目は、処理とアナリティクスを分散した形で実行するテクノロジ。3つ目は、処理やアナリティクスに先立ち、データやアルゴリズムを暗号化するテクノロジです。

このテクノロジにより、組織は機密性を犠牲にすることなく、地域や競合他社間で研究を安全に共同で行うことができます。プライバシーやセキュリティを維持しながら、データを共有したいというニーズの高まりに対応しています。

ガートナー2021年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドは、「People Centricity (人中心)」、「ロケーションの独立性」、「レジリエンスの高いデリバリ」の3つのテーマに分類できます。

トップ・トレンド4:分散クラウド

分散クラウドでは、クラウド・サービスが有するサービス提供能力をさまざまな物理拠点に分散させますが、オペ―レーション、ガバナンス、展開は、引き続きパブリック・クラウド・プロバイダーの責任となります。

「分散クラウドこそが、クラウドの未来なのです」

組織がこれらのサービスを物理的に近い場所で利用できるようになると、遅延問題を低減し、データコストを削減して、特定の地域にデータをおかなければならないという法律への対応なども可能になります。これにより、組織がパブリック・クラウドのメリットを活かしながら、オンプレミスであってもコストのかかる複雑なプライベート・クラウド・ソリューションを回避できます。分散クラウドこそが、クラウドの未来なのです。

詳細を見る (英語):The CIO’s Guide to Distributed Cloud

トップ・トレンド5:場所を問わないオペレーション

COVID-19による影響からビジネスを成功に導くには、場所を問わないオペレーション・モデルが不可欠です。このオペレーション・モデルの核心は、顧客、従業員、ビジネスパートナーが物理的に離れた環境で活動していても、どこからでもビジネスにアクセスすることです。

場所を問わないオペレーション・モデルは、「デジタル・ファースト、リモート・ファースト」です。例えば、モバイル専用の銀行では、送金から口座開設までを対面でのやり取りなしで行うことができます。デジタルが常に前提であるべきです。物理的な空間が必要ないというわけではありませんが、物理的な店舗での非接触型の会計など、リアルかバーチャルかに関わらず、デジタル面を強化すべきです。

トップ・トレンド6:サイバーセキュリティ・メッシュ

サイバーセキュリティ・メッシュは、スケーラブルで柔軟かつ信頼性の高いサイバーセキュリティ・コントロールのための、分散型アーキテクチャのアプローチです。今では企業の資産の多くが、従来型の境界の外側に配置されています。サイバーセキュリティ・メッシュは基本的に、人や物のアイデンティティに基づいてセキュリティ境界を定義することができます。また、ポリシーのオーケストレーションを一元化し、ポリシーの適用を分散させることで、よりモジュール化された応答性の高いセキュリティ・アプローチを実現します。境界線の保護があまり意味をなさなくなるにつれ、「壁に囲まれた都市」のセキュリティ・アプローチは、現在のニーズに合わせて進化しなければなりません。

詳細を見る (英語):Gartner Top 9 Security and Risk Trends for 2020

トップ・トレンド7:インテリジェント・コンポーザブル・ビジネス

インテリジェント・コンポーザブル・ビジネスとは、現状に基づいて適応し、根本から再編成できるビジネスのことです。デジタル・ビジネス戦略を加速するためにデジタル・トランスフォーメーションをさらに迅速に推し進めていく組織は、その時に利用可能なデータに基づき迅速なビジネス上の意思決定を下すことが必要です。

そのためには、組織は情報へのアクセスを向上し、より深い知見によって情報を解釈し、それが意味する事に対し素早く対応する必要があります。これには、組織全体の自律性や民主化を高め、非効率的なプロセスにとらわれることなく、迅速にその対象部分に対処できるようにすることが必要です。

トップ・トレンド8:AIエンジニアリング

堅牢なAIエンジニアリング戦略は、AIへの投資から最大限の価値を引き出しながら、AIモデルのパフォーマンス、拡張性、解釈可能性、信頼性を向上させます。AIプロジェクトは多くの場合、メンテナンス性、スケーラビリティ、ガバナンスの問題に直面するため、ほとんどの組織にとって課題となっています。

詳細を見る (英語):2 Megatrends Dominate the Gartner Hype Cycle for Artificial Intelligence, 2020

AIエンジニアリングは、AI を専門的で単独のプロジェクトの集合体ではなく、通常のDevOpsプロセスを適用する道筋を提供します。AIエンジニアリングは、組織全体のさまざまな領域を集結させてハイプを抑制します。その一方で、組み合わせた複数のAIテクニックを運用化する上で価値を獲得する道筋を明確化します。生成的モデルは、設計プロセスを迅速化し改善するテクノロジの試行錯誤を通じて、こうした創造的なプロセスを根本的に変える可能性を秘めています。AIエンジニアリングのガバナンスの側面から、信頼性、透明性、倫理性、公平性、解釈可能性、コンプライアンスの問題に対処する「責任あるAI」が登場しています。これは、AIの説明責任の運用化への移行を表しています。

トップ・トレンド9:ハイパーオートメーション

ハイパーオートメーションとは、自動化できるものはすべて自動化すべきだという考え方です。ハイパーオートメーションは、莫大な費用と広範囲の問題をもたらしている、合理化されていないレガシーなビジネス・プロセスを持っている組織こそが推進すべきものです。

多くの組織は、効率化も最適化もなされておらず、接続性もなく、クリーンかつ明示的でもないテクノロジの「つぎはぎ」によって支えられています。一方で、ビジネスのデジタル化を加速させるためには、効率性、スピード、民主化が必要です。効率性、有効性、ビジネスの俊敏性を重視しない組織は、後れを取ることになるでしょう。

【海外発の Gartner Articles】
本資料は、ガートナーが海外で発信している記事を一部編集して、和訳したものです。本資料の原文を含め Gartner が英文で発表した記事に関する情報は、以下よりご覧いただけます。
https://www.gartner.com/smarterwithgartner/

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