AIエージェントは、業務効率化やイノベーションを加速させる画期的なAI技術として注目されています。本記事では、AIエージェントの仕組みや特性、どのような分野で活用されるのかをわかりやすく紹介します。
ガートナーが発表した「2025年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」は、AIの進化、コンピューティング技術の革新、人間とマシンの融合といった三大テーマを軸に、企業や組織がデジタル戦略に組み込むべき10の重要トレンドを紹介しています。これらの技術は、倫理、信頼、持続可能性を重視しながら、競争力と組織力を高めるための鍵となります。
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AIエージェントは、デジタルおよび現実の環境で、状況を認識し、意思決定を下し、アクションを起こし、目的を達成するためにAI技術を適用する、自律的または半自律的なソフトウェアです。
これらは、環境との能動的な相互作用を通じて目的を達成するように設計されており、センサーから情報を受け取り、ツールやアクチュエーターを介してアクションを起こし、多様な環境で稼働できます。
現在のロボティック・プロセス・オートメーション (RPA) と比較すると、AIエージェントは段違いに洗練されており、タスクの自動化だけでなく、一定の「エージェント性」も有する高度なシステムです。
AIエージェントは、将来、環境から学習し、意思決定を下し、独⽴してタスクを実⾏する完全なエージェント性を備えるようになります。
AIエージェントの特性は多岐にわたりますが、考慮すべきエージェント性の主要な側面は以下の5つです:
AIエージェントは、その多様な能力と適応性によって、タスクを自動化し、情報に基づいて意思決定を下し、周囲の状況とインテリジェントにやり取りできるため、さまざまな業種の多くの業務を変革する可能性を秘めています。
生成AI(LLM)は、AIエージェントを構築するための基盤モデルやツール、あるいはAIエージェントがその能力を発揮するために利用する技術の一つですが、生成AI単体では、AIエージェントが持つような完全な自律性や能動性(エージェント性)はまだ限定的であり、人間の監督を必要とする初期段階にあります。
AIエージェントは、生成AIを含む様々なAI手法を統合し、より自律的に、目的志向的に、環境に適応しながら行動するシステムであるという点が大きな違いです。
現在のLLM(大規模言語モデル)をはじめとしたAIモデルは、「エージェント性」、すなわち人間の最小限の監督下で自律的に行動し、複雑な環境に適応したり目的を遂行したりする能動性を欠いています。このことが、AIモデルが企業にもたらすビジネス価値を制限しています。ビジネス価値を高めるためには、自律的に行動し、環境に適応しつつ複雑な目的を達成できるAIエージェントが必要であるとされています。
エージェント型AIは、組織のために⾏動し、⾃律的に意思決定を下してアクションを起こすために、組織に代わって⾏動する権利を付与された、⽬標主導型のソフトウェ ア‧エンティティです。
記憶、計画、センシング、ツール利⽤、ガードレールなどのコンポーネントと共にAI⼿法を使⽤して、タスクを完了し、⽬標を達成します。
具体的には、完了すべきタスクのリストを作成した上で、APIやロボティック‧システムを介してデジタル世界や物理世界でアクションを実行できることが期待されています。
エージェント型AIは、より⾼度で⾃律性の⾼い存在として位置付けられます。これは、AIが将来的にAGI(汎⽤⼈⼯知能)やASI(超知性)へと進化するという流れの中で、AIエージェントよりも包括的かつ進化的な概念として捉えることが妥当であるためです。
AIエージェントはエージェント型AIの1つとされており、チャットボット、RPA、AIエージェント、エージェント型AIの順に、その⾃律性や判断⼒に応じて段階的に進化しています。
エージェント型AIは、ガートナーの2025年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドの1つであり、責任あるイノベーションによって未来を形成する上で役立つと位置付けられています。
スケーラビリティと効率に対する需要が大きく、適応性が求められるワークフローにエージェント型AIを追加する機会を特定し、高品質なデータにアクセスでき、振る舞いの検証が可能なユースケースから小さく始めることが推奨されます。
AIエージェントを理解するうえで、ステートフルかステートレスかを区別することも重要です。
AIエージェントはタスクを自律的に処理しますが、そのプロセスは大きく「認識」「判断(推論)」「実行」の3つのステップに分けて考えることができます。これは人間の行動プロセスに似ており、AIエージェントの動作原理を理解するうえで役立ちます。
1. 認識:ユーザーからの質問や要求を解析し、その意図を正確に把握する段階です。内部知識と外部知識のどちらが必要かを判断し、必要に応じて外部データベースやAPIを参照して関連情報を取得します。AIエージェントがこれらの知識を取り込むためには、LLM、RAG、グラウンディング、Webサーチなどを組み合わせる設定が必要です。
2. 判断(推論):大規模言語モデル(LLM)などが、内部知識や検索結果をもとに情報を整理し、推論を行います。複雑なタスクや高い精度を要する場面では、Chain of Thought(CoT)やFew-shot Scaffoldingなどの技術を活用して段階的に推論を進めます。
3. 実行:最終的にAIエージェントが具体的なアクションを起こす段階です。ここには外部サービスの呼び出し(Function Calling、Tool Use、API呼び出しなど)が含まれます。これらの機能はAIエージェントの外部に存在するため、“外部のサービスや機能を利用している”と認識すると分かりやすいでしょう。
AIエージェントには多様な種類があり、これらの特性は相互に排他的ではありません。たとえば、目的ベースのエージェントが環境から学習する機能を持つ場合もあります。
以下に主要な種類とそれぞれの特徴をまとめます。
過去と現在の知覚情報を両方考慮します。世界の内的モデルを持ち、行動に対して環境がどう反応したかを踏まえ、次の行動を選択します。
特定の目的を達成することを目指します。ただ環境に反応するだけでなく、目的を達成する手順を主体的に踏むため、より自発的に行動します。
目的の達成だけでなく、その行為の有用性や品質を最大化する点に注目します。効用関数を用いて各状態の望ましさを評価し、その順位に基づいて意思決定を行います。
経験から学びながら自らのパフォーマンスを改善し、環境の変化に適応します。強化学習や教師あり/教師なし学習などの手法を活用し、時間の経過とともに進化します。
意思決定を階層構造で行います。上位層が抽象的かつ長期的な戦略を、下位層が短期的な意思決定を担うことで、複雑な計画や意思決定が可能になります。
共通の目的を達成するために、他のエージェントや人間と協力します。情報やタスクを共有することで、効率性と成果を高めることができます。
AIエージェントは、タスクの自動化や意思決定の高度化、周囲とのインテリジェントな相互作用などを通じて、幅広い業種/環境を変革する可能性を秘めています。
適切に設計/設定されたAIエージェントは、以下のような環境で活用されることが想定されます。
マルチエージェント・システム(MAS)は、複数の独立したエージェントが相互に協調して作業を行うAIシステムの形態です。各エージェントは自律的に環境を認識し、必要に応じて行動を起こす能力を持ちます。
AIエージェント同士を連携させることで、個々のエージェントでは対処できない複雑なタスクを処理したり、分散型の意思決定を行ったりすることが可能になります。
MASが活用できる領域として、以下があります:
AIエージェントを導入することで期待できる利点は非常に多岐にわたります。業務効率化やイノベーション促進、顧客体験向上など、さまざまな領域での大きな変革が見込めます。
主な利点は以下のとおりです。
ただし、これらの利点を十分に享受するためには、自律性や法的責任を踏まえたガバナンス体制、堅牢なセキュリティ対策、データ・プライバシーを守る法的・倫理的ガイドラインなど、明確なガードレールを設けることが不可欠です。次の「AIエージェントを活用する際のリスクとは?」も合わせてご参照ください。
AIエージェントには多くの利点がある一方で、自律性や学習能力、複雑なタスク実行能力の高さゆえに、さまざまなリスクが存在します。リスクを適切に管理しないと、企業に重大な損失や法的問題をもたらす可能性があります。
主なリスクを以下に整理します。
ガートナーでは、AIリスクを管理するための枠組みとして、AI TRiSM (AIのトラスト/リスク/セキュリティ・マネジメント)を提唱しています。モデルやエージェントの透明性・解釈可能性の確保や、コンテンツの異常検出、AIのデータ保護、敵対的攻撃への抵抗力強化など、総合的な対策を講じる必要があります。
AI TRiSMは、AI技術の導入や運用に伴う信頼性・リスク・セキュリティを総合的に管理するフレームワークです。エージェントのガバナンス、信頼性、公正性、堅牢性、有効性、データ保護などを保証し、AIを安全かつ効果的に活用するための包括的なガイドラインを提供します。
ガートナーは、企業や組織がAIエージェントを導入/活用する際に直面する課題やリスクを総合的に分析し、その解決策を提示しています。ガートナーのリサーチノートでは、AIエージェントがもたらす最新動向や可能性だけでなく、リスク軽減のための対策やガバナンス・モデルなども詳しく解説されています。たとえば、以下のようなリサーチノートを通じて、AIエージェントに関するより深い知見を得ることができます。
※ご契約者様向けのリソースです。ご契約のお客様は、以下のリサーチノートからさらなる詳細をご確認いただけます。
AIエージェントのリアリティ
執筆:亦賀 忠明, 針生 恵理
AIエージェントが急速にバズワードになりつつあります。AIエージェントは、人の力を介さずにタスクを自律的に実行できる仕組みであり、これに対する業界やユーザーの期待が高まっています。AIを推進するテクノロジ・イノベーションのリーダーは、今できることと将来できることを明確に区別し、リアリティに基づいて採用方針を決定すべきです。
クイック・アンサー:AIエージェントとエージェント型AIをどう捉え、何をすべきか
執筆:亦賀 忠明
AIエージェントは、急速に進化しつつある革新的な領域です。一方、市場には現在「AIエージェント」と「エージェント型AI (Agentic AI:エージェンティックAI)」という2つの用語が存在しており、混乱が生じている。これらを明確に区分することは、AIの戦略や適用タイミングを判断する上で重要です。
イノベーション・インサイト:AIエージェント
監訳:林 宏典
企業は、業種を問わず複雑な作業を自律的に実行する画期的なテクノロジとして、AIエージェントの進化を注視すべきです。AIエージェントは、業務を革新的に変える機会を提供する一方で、セキュリティや倫理上の重大な懸念も生み出すからです。
クイック・アンサー:AIエージェントがもたらす新たなリスクとセキュリティ脅威を低減する
監訳:礒田 優一
OpenAIやMicrosoftなどの先進のモデル・プロバイダーが既にAIエージェントを推進していますが、これらはAIモデルやAIアプリケーションに内在するリスクの範囲を超えた新たなリスクやセキュリティ脅威をもたらします。本リサーチノートでは、こうした新たなリスクを説明するとともに、リスク低減のために実装すべき新たなコントロールについて分析します。
ガートナーの各種コンファレンスでは、CIOをはじめ、IT投資、導入、運用管理にかかわるすべての意思決定者に最新・最適な情報とアドバイス、コミュニティを提供します。