経営戦略・事業戦略策定を成功させるための9つのステップ

2023年8月12日

経営戦略・事業戦略策定を行うにあたり、生産性と適応力が高く、企業のビジネス目標に結び付いたものにするために必要な9つのステップをご紹介します。

「自社は混乱した状況に対応できる適切なスピードで戦略プランを変更している」と回答した戦略担当者は、わずか29%にすぎません。ガートナーの最新の調査により、そのように適切なスピードで戦略プランを変更している企業には共通点があることが分かりました。それは、「経営戦略・事業戦略のプラン策定プロセスにビジネス・リーダーやファンクショナル (職務領域) リーダーが深く関与している」ということです。

ファンクショナル (職務領域) リーダーは、単独で戦略プランを策定すべきではありません。現在の混乱した状況における職務領域別の戦略プランは、多様なシナリオに対応し、企業戦略の方向転換に合わせて変更できることが特に重要となっています。

ガートナーのバイス プレジデントであるマーク・ケリー (Marc Kelly) は、次のように述べています。「重要なのは、全社レベル、ビジネス部門レベル、職務領域別のレベルにかかわらず、戦略策定プロセスにおける基本原則を守ることです。そして、必要かつ十分でないものはすべて排除して、効果の高い戦略を伝える必要があります」

戦略的マインドセットを持ち続ける

職務領域別のプランを策定するプロセスを開始する、戦略的マインドセットを持ち続けることを確約します。短期主義、戦術的な実行プラン、その他の「チェック項目」型の活動に陥らないようにします。短期目標の達成に関する懸念、失敗することへの恐怖、オペレーション問題へのこだわりなどがあると、戦略的思考を保てなくなってしまうものです。

これは、コスト管理予算編成のマインドセットにも当てはまる原則です。どのイニシアティブを遂行し、予算を割り当てるかを判断する際には必ず、戦略的な姿勢で臨むようにします。

ビジネス価値というレンズを通して職務領域におけるコスト構造を捉え、コスト最適化については、デジタル化などの差別化を可能にする成長イニシアティブにリソース (時間、能力、予算) を割り当てることを重視する継続的な規律であると考えるべきです。

どのような目的主導型の予算編成が戦略の実行に最も役立つかを検討し、職務領域のニーズに最適な予算編成のアプローチを明確にします。

体系的なステップ・バイ・ステップのアプローチを採用する

職務領域の最良プランでは、企業の大志を推進するイニシアティブを特定し、実行の成功に必要なキャパシティ (時間、予算、人材、テクノロジ) を明確にします。以下の9つのステップを指針とすることで、ファンクショナル (職務領域) リーダーは、プラン策定に厳格なアプローチで臨みつつ、企業の経営・事業戦略に適応させることができます。

ステップ1:期待される成果の概要を示す

マネージャーや経営幹部が互いに誤解してプロセスが頓挫しないように、すべてのステークホルダー向けに、企業やビジネスの状況を前もって明確に定義します。

特に、プラン策定と予算編成のプロセスが複数の職務領域をまたぐ場合は、それぞれのステークホルダーの責任、プロセスのタイムライン、期待される成果の概要を職務領域ごとに概説します。そして、戦略および予算プランを最終的に承認するステークホルダーを特定します。

ステップ2:ビジネス状況を検証する

確認事項:

  • 企業のミッション:自らの組織の存在理由と継続的に追求する企業目標を定義したもの 

    • 例:ある電気自動車メーカーの「国際社会における持続可能な (サステナブル) エネルギーへの移行を加速させる」というミッションは、持続可能なプラクティスへの移行に対する絶対的なコミットメントを反映するとともに、企業のより広範なパーパスを従業員に周知するものである

  • 企業のビジョン:意思決定プロセスを支える根本的な価値、原則、信念など、抽象的ではあるが、現実的な願望を具体的に示すもの

    • 例:ある航空宇宙企業の「防衛、航空宇宙、セキュリティの分野で世界的な企業になる」というビジョンは、現実的で、現状維持より高い志であり、方向性が定まっていて、かつフォーカスが何かを明確に示すものである

ミッションとビジョンが業務にどのように適用されるかを、職務領域の従業員が把握できるようにします。また、ビジネスの優先事項、課題、方向転換が、職務領域の緊急課題、機会、リスク、優先事項にどのような影響をもたらすかを明らかにします。

ステップ3:最終目標や達成目標を設定する

企業の経営戦略・事業戦略は、ビジネス上の願望を以下に置き換えます。

  • 最終目標:達成すると、差別化された価値が長期にわたってもたらされる単独または複数の取り組み

    • 例:欧州最大の再生可能エネルギー電力供給会社になる

  • 達成目標:最終目標をどのように実現するかを説明する、具体的かつ測定可能な手順 (これに必要なアクションはステップ4を参照)

    • 例:欧州の5つの地域に10基の風力発電所を建設し、風力発電量を3年間で200%増加させる

企業の経営戦略・事業戦略についてのプランが明確になれば、部門ごとの活動における現状を評価し、将来像を特定し、それに合わせた最終目標や達成目標を設定できます。

ステップ4:能力を評価する

アクション・プランの実行に必要となる、職務領域の主な能力を見極めます。職務領域の強みと弱みが客観的にどのように認識されているかを把握するため、ビジネス・パートナーに評価を依頼します。自らの評価とビジネス・パートナーの評価が概ね一致しているのが望ましい状態です。いずれにせよ、評価で分かったことに基づいて、職務領域の強化すべき能力や解消すべきギャップに優先順位を付けて一覧にします。

ステップ5:アクション・プランを策定する

この段階では、最終目標や達成目標の全般的な評価を実施し、詳細なアクションのステップに落とし込み、責任の割り当てを行います。職務領域におけるこのアクション・プランは、達成目標の実現に必要な一連の手順やイニシアティブをまとめた正式な文書となるべきものです。達成目標の実行/監視/制御/終了方法についての主要な情報源にもなります。

アクション・プランは、ひとたび突発的な事象が発生すると変更される可能性があるため、対処できる限りは、適応型戦略で対応できるよう備えておきます。

ステップ6:測定指標と評価指標 (メトリクス) を設定する

測定指標と評価指標は同じ意味で使われることがよくありますが、実際には両者には次のような違いがあります。

  • 測定指標:観察可能なビジネス成果 (従業員エンゲージメントなど)。測定指標によって、アクション・プランの有効性を評価できる。レポートにバイアスがかからないように、測定指標について事前に合意しておく

  • 評価指標:測定指標を定量化するために収集された実際のデータを表すもの (年次調査で「満足」と回答した従業員の割合など)

さまざまな可変要素を考慮して、十分な種類の測定指標と評価指標を選択するようにします。例えば、顧客満足度だけでエンゲージメントを十分に測定することはできません。自発的な努力や定着の意向といった重要な要素も把握するために追跡すべきです。

ステップ7:戦略をスライド1枚にまとめる

経営戦略・事業戦略プランの重要な要素をシンプルかつ明確に説明します。つまり、職務領域の現状、その方向性、将来像への到達方法などです。

経営戦略・事業戦略の概要をスライド1枚にまとめ、現在どのように価値を高めているかを伝え、今後1年間にどのようにビジネスにインパクトをもたらす予定であるかを明示します。戦略の説明、実行前後の職務領域の状態、戦略の前提となる1~2つの重要な仮定、ビジネスの最終目標をサポートする目的で設定した職務領域の達成目標の実現に必要な5~7つのイニシアティブを盛り込みます。

ステップ8:プランを周知させる

職務領域と企業全体に達成目標と戦略について「伝道」することで、プランを周知させます。スライド1枚の戦略テンプレートは、他者にプランを理解してもらうのに有益なツールですが、それでも周到なプロセスを経てプランを伝え、主要なステークホルダーにプランを理解および同意してもらう必要があります。

ファンクショナル (職務領域) リーダー間の賛同と関与を促進し、従業員のエンゲージメントとモチベーションを高め、優先事項がどのような理由でどのように変更されたのかをステークホルダー全員に周知するための、明確で一貫性のあるメッセージを作成すべきです。

ステップ9:変化に対応できるよう備える

経営戦略・事業戦略のプランが採用され、共有された後に極めて重要となるのは、達成目標に対する進捗を測定し、プランが有効であることを再確認および監視し、ビジネス状況の変化に応じて戦略を調整することです。具体的には、以下を行います。

  • トリガーをモニタリングして、戦略プランの有効性を追跡する

  • パフォーマンスの低いプロジェクトを速やかに中止する

  • 定期的に仮説を追跡して検証する 

最後に、モニタリングによってアラームが生じたときには、成功率を高めるために、具体的な手順や判断について、合意を得たアクション・プランを用意していることを確認する必要があります。

※この記事は、新たな事象、状況、リサーチを反映するために、年に1回更新されています。

【海外発の Gartner Articles】
本資料は、ガートナーが海外で発信している記事を一部編集して、和訳したものです。本資料の原文を含め Gartner が英文で発表した記事に関する情報は、以下よりご覧いただけます。
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