企業における生成AIの未来:ChatGPTを越えてその先へ

2023年9月4日更新

現在注目を集める「ChatGPT (チャットジーピーティー)」は、コンテンツやデータをAI自身が創出する「生成AI」のほんの始まりすぎません。企業では、はるかに高度な方法で生成AIが活用されていきます。

ベンチャー・キャピタル企業による過去3年間の生成AIソリューションへの投資額は17億ドルを超えており、最も多くの資金投資が行われているのは、AIを利用した創薬とAIソフトウェア・コーディングです。

ガートナーのテクノロジ・イノベーション担当リサーチ バイス プレジデントであるエリック・ブレテヌー (Erick Brethenoux) は次のように述べています。「ChatGPT (チャットジーピーティー) のような初期のファウンデーション・モデルは、創造的業務を補強する生成AI (ジェネレーティブAI) の能力に重点を置いたものですが、ガートナーでは2025年までに新薬や材料の30%以上が生成AI手法を用いて体系的に発見されるようになると予測しています (現在は0%)。そしてそれは、数多くある業界ユースケースの1つにすぎません。」

生成AIは、物体について考え得るさまざまな設計を探り、正しいもの、あるいは最適なものを見つけます。生成AIは、多くの分野で設計を拡張/加速するだけではなく、人間が見逃してしまうような斬新な設計や物体を「発明する」可能性も秘めています。

マーケティングとメディアでは既に、生成AIの影響が及んでいます。ガートナーの予測は次のとおりです。

  • 2025年までに、大企業から送信されるマーケティング・メッセージの30%は、合成的に生成されたものになる (2022年の2%未満から増加)。

  • 2030年までに、AI生成コンテンツ (テキストから映像まで) が90%を占める大ヒット映画が公開される (2022年の大ヒット映画では0%)。

それでも、AIのイノベーションは総じて加速しており、さまざまな業界で生成AIのユースケースが数多く誕生しています。以下に、その5つの例を紹介します。

生成AIを活用した5つの業界ユースケース

No. 1: 医薬品設計における生成AI

2010年の調査によると、創薬から市場投入までの平均コストは約18億ドルであり、そのうち約3分の1を創薬コストが占めていました。また、創薬プロセスには3~6年もの期間を要していました。生成AIは既に、さまざまな用途の医薬品を数カ月以内に設計するために活用されており、製薬会社に創薬のコスト削減と期間短縮を実現する大きな機会をもたらしています。

No. 2: 材料科学における生成AI

生成AIは、特定の物理的特性に照準を合わせた全く新しい素材を生み出すことで、自動車、航空宇宙、防衛、医療、エレクトロニクス、エネルギー産業に影響を及ぼしています。逆設計と呼ばれるこのプロセスでは、従来のように材料の発見をセレンディピティ (偶然の発見) に頼ることはせず、必要な特性を定義し、その特性を持っていそうな材料を発見します。その結果、現在エネルギーや輸送の分野で使われている材料よりも導電性や磁力が高い材料や、耐腐食性の高い材料などの発見につながります。

No. 3: チップ設計における生成AI

生成AIは、半導体チップの設計 (フロアプランの作成) において、強化学習 (機械学習の手法の1つ) を用いて部品配置を最適化できるため、人間の専門家では数週間かかる製品開発ライフサイクルが数時間にまで短縮されます。

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No. 4: シンセティック (合成) データにおける生成AI

生成AIは、シンセティック・データを作成する方法の1つです。シンセティック・データとは、そのデータの具体的な出所を特定せずに、現実世界を直接観察して得られたデータのクラスを指します。例えば、プライバシー保護のためにどの患者の医療記録が使用されたかを明らかにせずに、研究/分析用に医療データを人工的に生成できます。

No. 5: 部品の生成デザイン

製造、自動車、航空宇宙、防衛などの業界は生成AIを活用することで、性能、材料、製造方法などの目標や制約に合わせて最適化された部品を設計することが可能になります。例えば、自動車メーカーは、生成デザインを用いて軽量設計を推し進め、燃費の向上という目標を達成できます。

最適なテクノロジを組み込むことで、生成AIの潜在力を引き出す

今日のAIシステムは、その大半が「分類器」であり、犬と猫の画像を見分けられるように学習させることができます。一方、生成AIは、現実世界には存在しない犬や猫の画像を生成するよう学習させることができます。テクノロジが持つ創造力は、ゲーム・チェンジャーとなります。

生成AIを利用するシステムでは、動画、物語、トレーニング・データ、さらには設計図や回路図など、価値の高い成果物を作成することが可能です。

例えば、GPT (Generative Pre-trained Transformer) は、ディープ・ラーニングを使用して人間のようなテキストを生成する大規模な自然言語テクノロジです。蓄積してきた学習内容に基づいて、文中で次に続く可能性が最も高い単語を予測する第3世代 (GPT-3) であれば、物語や歌、詩、さらにはコンピュータ・コードまで記述できます。ChatGPTでは、10代の子供の宿題は数秒で終わります。

また、DALL·E 2、Stable Diffusion、Midjourneyなどのデジタル画像生成ツールは、テキストから画像を生成します。

生成AIに採用されているAI手法は数多くありますが、最近ではファウンデーション・モデルが注目を集めています。

ファウンデーション・モデルとは、一般的なデータソースを使って事前に「自己教師あり学習」を行い、新たな問題の解決に向けて適応させることができるモデルです。ファウンデーション・モデルは主に、トランスフォーマー・アーキテクチャをベースにしています。これは、学習データの数値表現を計算するディープ・ニューラル・ネットワーク・アーキテクチャの一種です。

トランスフォーマー・アーキテクチャは、連続するデータの関係を把握することによって文脈を、さらには意味を学習します。トランスフォーマー・モデルは、進化する数学的手法 (「アテンション (注意)」または「セルフ・アテンション (自己注意)」と呼ばれる) を適用して、連続するデータのうち離れたデータ要素であっても、わずかに影響を与え合い、依存し合っていることを検出します。

忘れてはならない生成AIのリスク

生成AIの導入に取り掛かる前に、忘れてはならないことがあります。生成AIはビジネス機会をもたらすだけではなく、ディープフェイクや著作権問題など、生成AIテクノロジを悪用して企業を狙う脅威もまた存在しているということです。

セキュリティ/リスク・マネジメントのリーダーと連携して、生成AIが悪用された場合に個人、組織、政府機関にもたらされる風評被害や偽造、不正利用、政治的リスクを能動的に軽減する必要があります。 

また、ベンダー/サービスを厳選するときは、生成AIの責任ある使用に関する助言を取り入れることを検討してください。その際に優先すべきは、学習用データセットと適切なモデルの使用に関して透明性の提供に努めるベンダーや、オープンソースでモデルを提供するベンダーです。

Erick Brethenouxは、テクノロジ・イノベーション担当のリサーチ バイス プレジデントで、テクノロジ・イノベーションとエンタプライズ・アーキテクチャに関する職務経験は25年に及びます。リサーチでは主に、テクノロジに関する最新トレンドと戦略的トレンドの予測に注力しています。「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」および「先進テクノロジのハイプ・サイクル」の主執筆者であり、2014年に出版された「Gamify: How Gamification Motivates People to Do Extraordinary Things」の著者でもあります。

【海外発の Gartner Articles】
本資料は、ガートナーが海外で発信している記事を一部編集して、和訳したものです。本資料の原文を含め Gartner が英文で発表した記事に関する情報は、以下よりご覧いただけます。
https://www.gartner.com/smarterwithgartner/

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