ガートナーの2023年以降の戦略的展望トップ10:不確実性を生かす

2023年3月12日

これからの組織には、不確実性をチャンスにつなげる態勢が求められます。本記事では、組織に必要な備えを検討し、見直す上で役立つ戦略的展望をご紹介します。

ポイント

  • 組織に必要とされる柔軟性と適応性を高めるための対応を検討し、見直すために、ガートナーの2023年の戦略的展望トップ10を活用できる

  • より優れた成果を実現し、不確実性の高まりに対処する準備を整えるには、テクノロジの能力とビジネス戦略を融合させる必要がある 

  • 不確実性をチャンスにつなげるため、経営幹部は変化に前向きに臨み、失敗も受け入れる態勢を整える

2023年に、ガートナーが予測するテクノロジとビジネスの重要な進化が、組織の考え方にどのような影響を与えるかを考察してみましょう。ガートナーが提唱する戦略的プランニングの仮説事項を今後のロードマップに組み込むことで、戦略的思考の持ち主の関心を引き付け、戦術を担う意思決定者に刺激を与えることができます。

アナリストでディスティングイッシュト バイス プレジデント兼ガートナー フェローのダリル・プラマー (Daryl Plummer) は次のように述べています。2023年のの戦略的展望のテーマは、『不確実性を生かす』です。この緊急課題を背景に、組織は成功への途上における最弱点、すなわち、『自社』に目を向けるようになっています。不確実性を生かすということは、不確実性は『希望』すなわち『機会』の宝庫だと認識することです。そのため、組織は思考と行動が同時に問われることになります」

不確実性を生かす

一般的に、人は変化を好みません。人に限らず、文化、市場、そして戦略も、革新や不確実性よりも一貫性や安定性を重んじる傾向があります。「しかし、経営幹部は成功を実現するために、失敗する可能性を受け入れなければなりません」と、プラマーは指摘します。そのためには、柔軟性が必要であり、古い考え方や行動様式を捨てる覚悟で臨む必要があります。

改善のための選択肢がバラバラであったり、二者択一であったりすることはほとんどありません。状況に応じて、取り組みを増やすべき場合も、逆に減らすべき場合もあります。例えば、自動化人工知能 (AI) を活用してサステナビリティを高めることは可能ですが、それでもリターンが目減りしないように慎重に導入する必要があります。同様に、インフレや景気後退によって仕事の選択肢が脅かされる可能性があったとしても、労働者が勤務地や働き方の柔軟性の高い労働環境を求める中で、企業は投資による成長コスト削減のバランスを取る必要があります。

不確実性をチャンスにつなげ、組織の柔軟性と適応力を高めて、今後何が起きても対応できる態勢を確立するために、ぜひ以下の戦略的展望トップ10を参考にしてください。

トレンド1:完全に仮想化されたワークスペースは、メタバース・テクノロジへの投資拡大の30%を占め、2027年末までにオフィス・エクスペリエンスを「描き直す」

仮想ワークスペースを導入することで、地理的な場所に関係なく従業員を雇用し、連携させる能力が高まります。対面での活動に参加できない従業員や、参加を希望しない従業員も関与できるようになります。仮想空間は、出張や会議ソリューションの代替となるものであり、今後は両方の業界にディスラプション (破壊) をもたらすと予想されますリモート・ファーストやハイブリッド型の組織では、仮想ワークスペースがオフィスに取って代わり、最終的にはデジタル従業員エクスペリエンスの中心となる可能性があります。

トレンド2:2025年までに、「労働の不安定性」は、40%の組織において重大なビジネス損失を引き起こし、獲得からレジリエンスへと人材戦略の転換を迫る

会計で使われる「重大」という用語には、「財務上著しい影響を及ぼし、財務情報の開示において説明されなければならない」という意味があります。40%もの組織が、オペレーションの一貫性と安定性の確保に苦労することになると予想されます。ビジネスモデルを実行に移し、実現するには、柔軟性を重視する方向へと大きく転換する必要があります。例えば、従業員の57%は、優れたカスタマー・エクスペリエンスをすぐに創出できるような支援を、自社から受けているとは考えていません。

トレンド3:2025年までに、文書で報告されている男女間賃金格差を是正する組織は女性の離職率を30%減らし、人材不足のプレッシャーを軽減する

組織は、ビジネス戦略を遂行するための適切なスキルを持った人材を確保するために奮闘しています。同時に、投資家からの圧力や社会の期待を受け、また自社のビジネス価値の実現のために、多様性をさらに高めようと努めています。報酬は、優秀な人材を定着させる上で、最も重要な要素です。従業員は正当な処遇を望み、転職によって見合った報酬を得ようとします。また、多様性の向上によってビジネスが得るメリットは明らかです。利益や収益を増やし、生産性を改善し、卓越したイノベーションを実現するには、女性従業員の定着率を高めなければなりません。

トレンド4:2025年末まで、ウェルビーイング、燃え尽き、ブランド満足度などの従業員価値指標は、成長への投資を成功させる意思決定の30%において、投資収益率 (ROI) の評価よりも優先される

優れた従業員エクスペリエンスを提供する組織は、カスタマー・エクスペリエンスに関する評価指標でも優れた成果を出す傾向があり、これが結果として収益の伸びとロイヤルティの向上につながります。従来のROIモデルは、コストの削減 (人員削減など) や直接的な収益の増加 (営業担当の増員など) といった、短期的に成果が出る投資を高く評価しがちです。ROIの枠を超えた広範な評価指標を用いることで、長期的な成長、ディスラプション、イノベーションへと投資の焦点を移すことができるようになります。

トレンド5:2025年までに、AIは、人間の労働力よりも多くのエネルギーを消費するようになるため、持続可能なAIを実践しなければ、カーボン・ニュートラルの利益の多くが相殺される

AIが消費するエネルギーは、人間の活動を自動化するための利用拡大に伴って、急速に増加しています。機械学習 (ML) モデルはトレーニングと実行が必要なため、クラウド・データセンターの利用が拡大することになります。MLのエネルギー消費を大幅に削減するために、さまざまな方策が始まっています。AIについては、「あまりに多くのエネルギーを消費するテクノロジ」として片付けるのではなく、環境フットプリントをはるかに上回るメリットをもたらす可能性に注目すべきです。しかし、AIの可能性を現実のものにするには、可能な限り多くのプロセス、企業、組織が積極的かつ効果的にAIを応用する必要があります。

トレンド6:2027年までに、ソーシャル・メディア・プラットフォームのモデルは、「プロダクトとしての顧客」から、データ市場を通じて販売される分散型アイデンティティの「顧客としてのプラットフォーム」へと移行する

現在のオンライン・サービスでは、ユーザーが繰り返し本人確認を行う必要があり、効率性、拡張性、安全性のいずれの面でも問題があります。そのため、持ち運び可能なデジタル・アイデンティティ・ウォレットへと市場が移行していくと予想されます。アイデンティティ・ウォレットを使用することで、ユーザーは一度証明したアイデンティティを何度でも利用できるようになります。

Web3では、よりパーソナライズされたユーザー・インタラクションをサポートするため、新しいアイデンティティ・データ市場が必須になります。この新しいモデルでは、ユーザーが自分のアイデンティティ・データを公開し、そのデータの利用や必要な支払いの条件を契約で定める必要があります。

トレンド7:2026年までに、仮想アシスタントを利用してオペレーションを停止させる市民主導型サービス拒否 (CDoS) 攻撃は、抗議活動の形態として最も急速に増加する

サービス拒否攻撃は現在、さまざまな国際的な政策や法律に抵触します。そのため、そうした攻撃を言論の自由の一形態とみなすべきかが議論されています。悪意を持つハッカーだけでなく、社会問題に関心を持つ市民が攻撃を実行するケースが増える中、問題が複雑化し、新しい法律の必要性に拍車がかかる可能性があります。組織は、市民主導のサービス拒否攻撃を受けることで多大な出費を負いかねません。市民主導の攻撃への対策として、Amazon、Google、Appleといった仮想アシスタントのプロバイダーは、仮想アシスタントが組織に接続するスキルやアクションを取り除くよう強く求められるようになる可能性があります。

トレンド8:2025年までに、投機的な「ムーンショット」投資は、株主の受容度が2倍に高まり、従来の研究開発費に代わって成長を加速する有力な選択肢になる

先進企業は、不確実性や混乱を逆手にとり、今まで知られていない新たな考え方、能力、スキルを生かして、成長機会を捉えます。「ムーンショット」とは、リターンが期待できるハイリスクまたは投機的なテクノロジ投資を企業や株主が受け入れることを指します。破壊的な手段 (プロダクト、テクノロジ、イノベーション) を用いて既存または新規の問題を解決するための、急進的な新しい方法です。決められたイノベーション予算を使い、ビジネスケースを通じて将来の成果を予測するという従来のやり方に代わるアプローチとなります。組織は、存続性、投資、将来のイノベーションを維持する方法として、まず失敗することを許容するようになるでしょう。

トレンド9:2025年末までに、強力なクラウド・エコシステムは、ベンダーの30%を集約するため、顧客の選択肢が少なくなり、ソフトウェアの行く末をコントロールできなくなる

現在のクラウド・エコシステムでは、クラウド・ソリューション・プロバイダー (CSP) や独立系ソフトウェア・ベンダー (ISV) の多様なツールが統合されています。こうしたエコシステムは、機能性、成熟度、採用状況が十分ではないことが多く、ほとんどの組織は改善のために混在型のエコシステムを構築しています。今後、主たるエコシステム・ベンダーが成熟して独自ツールを増やすのに伴い、ISVのサードパーティ・ツールが置き換えられていくでしょう。CSPがツールの有用性を高め、イノベーションに迅速に対応することで、統合が減り、市場投入までの時間が短縮され、トレーニングが軽減されます。その結果、大幅にコストを削減できるようになります。

トレンド10:2024年末まで、規制当局によって認可された共同所有の主権パートナーシップによって、世界的なクラウドのブランドに対するステークホルダーの信頼が高まり、ITのグローバル化が引き続き促進される

政府や規制当局の意識の高まりを受けて、プライバシー/データ保護政策の強化、データ主権やデータ管理に対する要件の厳格化、テクノロジの管理や長期的な自律性などによるデジタル主権への要求の拡大につながっていきます。

ソブリン・クラウド・ソリューションを巡る期待事項は、データ主権やプライバシーの懸念から、クラウド・ソリューションへの継続的かつ長期的なアクセスや可用性に関する懸念へと変化しています。規制当局とクラウド・プロバイダーは、連携して適切な潜在的アプローチや方策を明確にする必要があります。政府と規制当局が共同のクラウド・プロバイダーとして管理するアプローチを取ることで、グローバルなクラウド・ブランドに対するクラウド・ユーザーの信頼を確立 (または回復) し、継続的なテクノロジのグローバル化を促進できるようになります。

Daryl Plummerは、アナリストでディスティングイッシュト バイス プレジデント兼ガートナー フェローです。リサーチでは、クラウド・コンピューティングの戦略的課題、デジタル・ディスラプションのほか、予測/トレンド/進化するデジタル・ビジネス・サイクルを通じて未来を明らかにすることに注力しています。

関連コンテンツ

eBook:2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド

Webinar:2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド

【海外発の Gartner Articles】
本資料は、ガートナーが海外で発信している記事を一部編集して、和訳したものです。本資料の原文を含め Gartner が英文で発表した記事に関する情報は、以下よりご覧いただけます。
https://www.gartner.com/smarterwithgartner/

ガートナーのサービスをご利用のお客様*にお勧めのレポート

英語:

日本語:

*契約されているサービスにより本ドキュメントを閲覧いただけない場合もございますので、ご了承ください。

ビジネスを成功に導くガートナーのサービス

ガートナーのエキスパートから提供する、確かな知見、戦略的アドバイス、実践的ツールにより、ミッション・クリティカルなビジネス課題の解決を支援します。

Get Smarter

Gartner Webinars

Gartner Webinars

ガートナーのエキスパートから、さまざまな分野における最新の知見をご紹介

ガートナー コンファレンス

ニュースレター「Gartner News」へご登録ください

「Gartner News」はITの各分野を幅広くカバーした「皆様のビジネスとITを成功に導く情報」をお届けいたします。

ご登録のEメールアドレス宛てに、最新リサーチ情報、コンファレンス開催情報などをお届けいたします。

Gartner Articles

さらに Gartner Articles を表示する

ガートナーのリサーチ・サービスについてのお問い合わせ