デジタル免疫システムとは何か?

2022年12月17日

「デジタル免疫システム (Digital Immune System, DIS)」は、ガートナーによる2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドのひとつです。
ソフトウェアの設計、開発、オペレーション、アナリティクスのためのプラクティスとテクノロジを組み合わせて、ビジネス・リスクを軽減します。

ポイント

  • デジタル免疫システムは、障害に対するレジリエンスを高めることで優れたカスタマー・エクスペリエンス (CX) とユーザー・エクスペリエンス (UX) をもたらす。
  • デジタル免疫システムは、プロダクト/サービス/システムのレジリエンスを高めるためのプラクティスとテクノロジを組み合わせたものである。
  • ビジネス部門とIT部門、両方のステークホルダーにとって、デジタル免疫システムがどれほど大きなビジネス価値をもたらすかを考慮する。

 

デジタル免疫システムが堅牢であれば、アプリケーションのレジリエンスを高めて障害から迅速に回復できるようなり、ソフトウェアの不具合やセキュリティ問題などが生じた場合でも、アプリケーションやサービスを保護することができます。これにより、重要なアプリケーションやサービスに深刻な障害や完全な機能停止が発生した場合でも、事業継続を損なうリスクが軽減されます。

ガートナーのアナリストでシニア ディレクターのヨアヒム・ヘルシュマン (Joachim Herschmann) は、次のように述べています。「企業は、レジリエンスの高い運用環境、加速するデジタル・デリバリ、信頼できるエンドユーザー・エクスペリエンスを確保する中で、これまでになく大きな課題に直面しています。ビジネス部門は、市場の変化に素早く対応し、イノベーションを迅速に起こせるようになることを期待し、エンドユーザーは健全な機能性だけでなく、高いパフォーマンス、取引やデータの安全性、満足できるインタラクションを期待しています」

なぜデジタル免疫システムが重要なのか?

デジタル免疫システムは、ソフトウェアの設計、開発、自動化、オペレーション、アナリティクスなど、多様なプラクティスとテクノロジを組み合わせて、優れたユーザー・エクスペリエンス (UX) を生み出し、ビジネスのパフォーマンスに影響を及ぼすシステム障害を低減します。デジタル免疫システムは、アプリケーションとサービスを保護してレジリエンスを高め、障害から迅速に回復できるようにします。

ガートナーでは最近、デジタル化を実行するにあたっての障壁に対する課題の克服についての調査を実施しました。その中で、回答者の半数近く (48%) は、デジタル投資の主な目的はカスタマー・エクスペリエンス (CX) の改善であると回答しています。ソフトウェアの不具合やセキュリティの問題といった欠陥やシステム障害/異常によってCXが損なわれないようにするため、デジタル免疫システムは重要な役割を果たします。

2025年までに、デジタル免疫システムに投資する組織では、ダウンタイムを80%削減し、これによって顧客満足度を高めることができるようになると、ガートナーでは予想しています。

デジタル免疫システムを強化するための6つの前提条件

デジタル免疫を構築する際には、円滑な実装に向けて組織の足並みを揃えるため、強力なビジョン・ステートメントから着手します。次に、以下の6つのプラクティス/テクノロジの導入を検討します。

  1. オブザーバビリティ (可観測性):ソフトウェアやシステムを「可視化」する。アプリケーションにオブザーバビリティを組み込むことにより、信頼性やレジリエンスの問題を軽減し、(ユーザー行動を観察して) UXを改善するために必要な情報を取得できる。
  2. AI拡張型テスト:ソフトウェア・テストで人的介入を必要とする活動を削減する。従来のテスト自動化を補完/拡張するものであり、テストの計画/作成/保守/分析の完全な自動化も含む。
  3. カオス・エンジニアリング:実験的なテストを用いて、複雑なシステムに潜む脆弱性や弱点を明らかにする。本稼働前の環境で使用する場合には、非侵入型かつテスト・ファーストのアプローチで安全にプラクティスを習得し、得られた教訓を通常のオペレーションや本番環境のハードニングに応用できる。
  4. 自動修復:コンテキストに応じたモニタリング能力と自動修復機能をアプリケーションに直接組み込む。これにより、アプリケーションが自らを監視し、問題を検知すると自動的に修正して正常な動作状態に戻すため、オペレーション担当スタッフが介入する必要がなくなる。また、オブザーバビリティとカオス・エンジニアリングを組み合わせて、不具合のあるUXを修復することで、問題を未然に防ぐことができる。
  5. サイト・リライアビリティ・エンジニアリング (SRE):CXと顧客の定着を改善するための一連のエンジニアリング原則/プラクティスであり、サービス・レベル目標を活用してサービス管理を統制する。安定性とリスクを踏まえて速度のニーズを調整し、開発チームが修復や技術的負債に費やす労力を軽減しながら、魅力的なUXの創出に注力できるようにする。
  6. ソフトウェア・サプライチェーン・セキュリティ:ソフトウェア・サプライチェーンに対する攻撃のリスクに対応する。ソフトウェア部品表は、ソフトウェア・サプライチェーンにおける独自仕様/オープンソースのコードの可視性、透明性、セキュリティ、完全性を向上させる。強力なバージョン管理ポリシー、信頼できるコンテンツのためのアーティファクト・リポジトリの使用、デリバリ・ライフサイクル全体を通じてベンダーのリスク・マネジメントを行うことで、社内外のコードの完全性を保護する。

CXの最適化に注力するとともに、潜在的なリスクを軽減します。デジタル免疫システムの導入には革新的な考え方が必要とされますが、プラクティスとテクノロジを組み合わせることで、複雑なデジタル・システムに障害が発生した場合でも稼働を維持できるようになります。

Joachim Herschmannは、ガートナーのアプリケーション設計/開発チームのアナリストでシニア ディレクターです。ソフトウェアの設計/開発/人材に関する戦略策定について、CIO、ITリーダー、ソフトウェア・エンジニアリング・リーダーを支援しています。ソフトウェアの品質/テスト、AI拡張型開発/テストのテクノロジ、DevOpsの分野のエキスパートです。

【海外発の Gartner Articles】
本資料は、ガートナーが海外で発信している記事を一部編集して、和訳したものです。本資料の原文を含め Gartner が英文で発表した記事に関する情報は、以下よりご覧いただけます。
https://www.gartner.com/smarterwithgartner/

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